川崎エッセイ 新・大阪もののけ紀行 その12 妖怪ベッタン HOME
梅田から谷町線で平野区へワープ出来る。地下鉄なので外が見えず、徐々に環状線の外側へ出て行く感覚がないためじゃ。
しかし今回、地下鉄に現れる妖怪ではない。古きよき時代の平野の路地に出現するベッタン妖怪の話となる。
ペッタン、地方によりメンコとも呼ぶ。堅い紙にキャラクタなどが描かれたカードじゃ。
このカードにて地面をペッタンと叩き、その風圧で、相手のベッタンをひっくり返したり、積み上げしペッタンから任意の一枚を引き離したりする遊びじゃ。
子供にとり、ベッタンやビー玉は現金と同じ価値があった。
さて、大阪下町子供遊び風景色濃く残りし平野の路地へ、わしは取り残されたベッタン妖怪を探しに出た。
地下鉄平野駅からJR平野駅まで、広い路地エリアが展開しておる。その一つ一つの路地を調べるのは無理。助手のガンジーとジグザグ曲がりながら進む。
ペッタン全盛時代流行し風呂屋、時計屋を発見。既に永眠しておる。
この町に個人博物館が何カ所かあると聞き及んでいたが、見つけたのは、ひとつ。カマドや、古い電気炊飯器をば玄関先にて展示。カマドの火も再現されておる。
国宝にはならぬが、貴重な文化財、平野の古い家にはまだまだ残っているに違いない。
ペッタン妖怪も、この感じにて生息しておると自信を得る。
この妖怪、八尾辺りからペッタン合戦で遠征に来た少年が戦いで破れ、その未練がペッタンに乗り移ったとされる。
平野の路地に未だに生息し、深い路地を子供が歩いていると「ペッタンやろう」と、誘う声、どこからともなく聞こえて来る。
わしらは、以前、駄菓子屋だったようなパン屋の前にて立ち止まる。ガンジー、奥に飾ってあるセルロイドお面を発見。これぞ動かぬ駄菓子玩具の痕跡。しかしペッタンはなかった。
ペッタンは駄菓子屋で売られており、負けると補給が必要。そのため、ペッタンを買うのは屈辱だったのじゃ。
次々に路地を抜けながら、わしらは迷いそうになる。かなり深い場所まで踏み込んでおる。その前方に球体を二つに割ったような大きな石を発見。これぞ妖怪が潜みし石室と指さすと「それは石臼が引っくり返ってるだけですがな」とガンジーに突っ込まれる。
後で思えば、あのおり、その石臼に耳を当てれば「ペッタンしよう」と聞こえて来たのではないかと、わしは今でも思っておる。
古き町並み残りし路傍には石が点在しておる。これは遺跡を見る思いじゃが、ペッタン全盛時代には腰掛けの役目を果たしておったのかもしれぬ。
その思いで石を見ておると、そこに座りしペッタ少年達の幻を見る。
路地裏にて集団的遊び消えし平成のこの時代、ペッタン妖怪も相手を失い、路傍の石の下にて永眠しておるのやもしれぬ。
わしらは、その後、平野の路地に快く迷い込み、彷徨いながらもJR駅前にたどり着く。
しかし、超高層マンション群林立風景は、ペッタン風景を一掃せしめる時代の風。
敷地内にさえ入れぬ、とある神社の本殿も、高層マンションから見下ろせる時代。
しかし平野には、まだまだ平野郷時代の心潤す古き町並みが残っておるだけでも救いじゃ。
ペッタン妖怪の「ペッタンやろうIの声、子供達に伝うることを願うのみ。