川崎エッセイ 新・大阪もののけ紀行 その17  妖怪オッペケ     HOME

 春うらら。自転車で猪名川を渡り、阪急庄内駅に到着。
 アジアの帝都大阪の匂いが庄内駅前に立ち込める。
 大阪の素顔はその周辺部に来て、より濃厚に分かるもので、町も人も油断しておる。
 駅前の密度は濃く、どこか十三にも似ており、ここが豊中市であることを忘れるほどじゃ。
 駅前開発もよいが、自然発生的に店が立ち並ぶ景観には人肌の温もりさえ感じるほど。
 と、大袈裟なことを思いつつ、改札前に来ると、助手のガンジーは珍しく先に立っておった。
 いつもならそのまま喫茶店に入り、休憩するところだが、いきなり商店街の雑踏に入る。それほど神秘が待ち受けていそうな町なのじゃ。
 さて今回はオペラ座の妖怪「オッペケ」にて、この近くにあるオペラ劇場近くに出没する。
 そういうことが駅前の案内板に書かれておるわけではないが、オペラと言えば「オペラ座の怪人」が住み着いておっても、わしの頭の中では極自然な展開よ。
 アーケード内を進むと不思議なスペースに出る。鞄や老眼鏡や時計の屋台がある。
 自転車の駐輪場付近にて、修理屋が出張サービスで来ておる。そこに日傘を立てるアイテムが売られておるのじゃ。
 ママチャリ軍団が一斉に日傘を立て、集団走行しておる姿は大阪名物。
 そのアイテムがどのようにして売られているのかが、これで判明した。ここは主婦の自転車改造アジトなのだ。
 アーケードを抜けると、おびただしい数の文化住宅や借家が並んでおる。庄内は地方から出て来た学生の住み処としても有名なのだ。
 そしてオペラ座の妖怪のアジトも、恐らくその中に混ざり込んでおるに違いない。
 音楽大学のオペラ劇場が目前にある。付近の文化住宅との対比が妙じゃ。それに、こんな場所にオペラ劇場があることも不思議な絵じゃ。
 まあ、歌舞伎小屋のある大学もあるのじゃから驚くことではないが、オペラは珍しい。
 珍しがり屋のオッペケはオッペケケオッペケペッポペッポッポッと、その建物の周囲を徘徊する。実に不審な行為だが、それ以前に妖怪そのものが不審の横綱じゃ。
 わしらは、その徘徊順路を巡るように、キャンパス近くの路地裏に入り込んだ。
 そこは新興住宅地なのだが、路地に緑多く、植木や草花の鑑賞コースと申しても過言にあらず。
 そのため、路地裏をうろうろしておっても、怪しまれぬ。
 と、油断しておると、妙な視線を感じた。すわ妖怪オッペケか! と思いしや、さにあらず。
 ガンジーは住民警備隊のようなものに監視されておるのではないかと言う。
 向こうの角に一人。二階の窓に一人。後ろに一人…と、わしらを見張り、そして徐々に包囲されそうな雰囲気を感じる。
 忍び込んだ忍者を取り押さえる地元忍者の如く、その包囲網が縮められぬよう、わしらは足早に路地裏を抜け、駅前へ戻ることにした。
 公園内吊り輪の鉄柱に血糊発見。闘い跡かと思いしや、赤ペンキだった。
 きっとこの周辺は妖怪オッペケが常に徘徊する場じゃが、いずれは地元パトロール隊により駆逐されるに違いない。
 わしやガンジーは誰が見ても不審者の風体ゆえ、包囲駆逐されぬよう背広とネクタイと認証札を首からぶら下げる必要を感じた。
 怪しき者。それはロマンへ至る帳。怪しき者がロマンの幕を開ける。
 しかし時代は、その種のキャラを泳がしてはくれぬ。
 帰路、オッペケケオッペケケと鳴く声が聞こえたが、空耳だろう。


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