川崎エッセイ 新・大阪もののけ紀行 その19 妖怪ポッポ HOME
久しぶりに梅田へ出た。
「天が下に新しきものなし」で、新たなスポットができても、新たにできただけで、今まで見たことも聞いたこともないものができたわけではないのじゃ。
下手をすると古き遺物の方が新鮮に思えたりしよる。
で、今回はJR大阪駅から福島方面への町並みを歩いてみる。
大阪駅の中央コンコース、噴水前にてガンジーと待ち合わせるが、噴水が見当たらぬ。何という有り様じゃ。あそこは水があるからこそよかったのじゃ。都会の砂漠だからこそ潤いが必要なのに…。
わしらは取材前に必ず喫茶店に入る。わしが行き着けの店が元噴水前にあったのじゃが、コンビニになっておった。わしの水のみ場が消えておるがな。
店内を抜けると駅裏に出る。そこはJRの広大な土地が中津や福島まで続かんばかりに広がっておる。
今回の妖怪は鉄道妖怪にて、その名はポッポ。「上りの汽車がピーポッポ…」と、三橋美智也が歌っておった時代に出ておった妖怪ゆえ、さほど古くはない。
蒸気時代の湿り、水分の潤い在りし日の妖怪じゃ。
その妖怪、貨物関係のあの敷地内に生息しておるとの噂。
梅田界隈散歩者はあの広大な場所を秘境呼ばわりしておる。まあ、一般の買い物客が歩いておらぬ場所なのだが、最近は大型電器店のビルが聳え、駅裏もにぎやかになってきよった。
妖怪ポッポは子供の汽車ごっこから発生した。縄で輪を作り、何人もの子供がその中に入り、人間車両の一つ一つとなって、縄を握りながら走る。
一番前が運転手、一番後ろが車掌じゃ。これにはきっちりとした序列があり、ガキ大将でないと運転手にはなれん。十人集まれば十両編成となる。妖怪ポッポはその残滓。
駅前開発とかで古き良き時代の建物が取り壊されたりすると、出てきよる。
さて、わしらは大阪駅の背後から郵便局前へ出る。コンピュータ系の学校やホテルやショッピングビルが新たにできておる。
新聞社のビルもある。ひっそりとしておった郵便局の裏側が賑やかじゃ。
実はここに真っ昼間、妖怪ポッポが走るらしい。
縄を握る少年たちは既に老てはいるものの背丈や服装は昔のままだという。
十両編成、時には貨物列車のように長い数珠繋ぎ編成で駆け抜ける。
新しいスポットに、まるで嫌がらせでもをするかの如き狼藉じゃ。
昔の貧乏臭いものに蓋をしたつもりでも、妖怪には蓋は効かぬ。
縄一本で遊ばれたのでは、経済効果ゼロじゃ。
わしらは一周し、再び貨物引込線の踏み切りへ出る。
踏み切りが閉まり、たった一両の車両があっと言う間に通過する。コンテナ車両を引っ張る先頭車両だろうか。
それがビルの中に消えて行く。わしは思わず、つげ義春の漫画「ねじ式」を連想した。線路のない路地裏を走る汽車。乾燥したビル街に蒸気の湿りを吹きかける。
戻り道、古い建物を発見する。倉庫の屋上にテニスコートがあるらしく。子供の自転車が入り口に止っておる。
その陸橋から大阪駅の背後が見える。高層ビルが建ち並び、観覧車が回っておる。
わしは思う。梅田周辺で再開発をするならば、いっそのこと原っぱにせよと。