川崎エッセイ 絵解き世間之事情 その1 映画館      HOME

 久しぶりに映画館で映画を観た。映画はテレビややビデオでも観られるので、劇場にまで足を運んで観る機会は減った。

 その日は映画を観るつもりはなかった。駅前まで散歩に出かけ、衝動買いするように、映画館に入りたくなったのだ。毎日同じような現実ばかりを見て暮らしていると、たまには非現実な世界に入り込みたくなるものだ。その場合、茶の間で映画を観るよりも、劇場の暗闇がふさわしい。

 パニック映画をやっているはずだったのだが、終わっていて、ホラー映画二本立てになっていた。長丁場である。お菓子を食べながら観ようと思い、近くの商店街へ向かう。普段はコンビニでスナック菓子を買うのだが、変わったものを食べようと思い、お菓子屋さんを探す。昔のような量り売りの店は見つからなかったが、袋詰めの菓子を並べている店は残っていた。バーコードはなく、値段もマジックで書かれていた。

 たまにしか行かないが、その映画館はよくすいている。下手をすると家族全員が集まった程度の観客しかいないときがある。しかしその日は、ほぼ満席で、座る場所を探すのが大変だった。やはり観客が少ないと、映画館で映画を観た感じにはならない。

 邦画二本立てだったが、テレビでよく見る役者が、大きなスクリーンに写される。「ああこんな顔をしていたのか」と改めて思うほど鮮明だ。

 二本のホラー映画は、全く日常とは異なる映画独自の非現実な物語が展開されていた。僕も含めて、非日常な世界へ、ひとときの間ワープし、そこで現実を忘れ「あらぬ世界」に浸かりたいのだろうか……。

 ラストシーンの余韻を残しながら劇場を出る。いつもの街の夜景が違って見える。この感じこそ劇場で映画を観た醍醐味なのだ。そして、街を歩くうちに徐々に日常の現実が戻って来る。たまには映画館へ行くものだ。


川崎エッセイ 絵解き世間之事情 その1 映画館      HOME