川崎エッセイ 絵解き世間之事情 その13 立ち食い HOME
ちょっと小腹がすいたとき、立ち食いそば屋へ行くことがある。関西では大衆食堂イコールうどん屋の場合が多い。当然そばやラーメン、夏になると素麺まである。しかし町内にあるこの種の食堂は少なくなった。逆に喫茶店にうどんのメニューがあったりする。
うどんとそばはラーメンに比べてあっさりしており、値段的にも安い。
うどんやそばだけを食べたい場合、立ち食いの店に入る方が簡潔である。本格的に食事をするほど時間がないとか、定食を食べるほど空腹ではない場合だ。
立ち食い店も、個人の店とチェーン店とでは趣が違う。僕がよく行く店では、作る人によって具の量が違う。パートのおばさんの気性で決まったりする。チェーン店では具はあらかじめ調理された状態でパック化されており、味付けも量も一定している店がある。
どちらの店に入っても、共通して言えるのは「うどん」と注文しても「何うどんですか」と聞き返されることが多い。本当は素うどんを食べたくても、そう聞き返されると「天ぷらうどん」と思わず言ってしまう。最初に「かけうどん」と、はっきり宣言しなかった僕が悪いのだ。経済的な理由でケチっているわけではなく、ネギと蒲鉾だけのあっさりとしたうどんを食べたいときがあるのだ。しかし注文すると「安いのを注文しあがって」というような視線を受けるのは、僕だけだろうか。
ファーストフード店で、コーヒーだけ注文しても、その視線はノーマルだ、むしろ手間のかからない注文品なので、悪い顔はされない。うどんやそばのメニューには縦社会のランクが残っているようだ。
いつも行く立ち食い店の前に終夜営業の牛丼屋ができた。メニューに「うどん」もある。その近くには立ち食いのチェーン店もあり、個人の店は追い込まれた状態だ。
僕はそういうドラマも味わいながらも今日もその店で立ち食いそばを食べた。