川崎エッセイ 絵解き世間之事情 その16 様変わり      HOME

 先日久しぶりに神戸三宮から元町まで歩いてみた。震災の傷跡はもう見えないが、消えている店があった。というより、もうそのビルがなくなっており、新しい建物になっているのだ。
 二十年ほど前よく行っていた紅茶専門喫茶も消えており、外装は同じなのだが、別の店になっている。しかし、その店も閉鎖されていた。それが震災の影響か、その店だけの事情によるものかは分からない。周囲の店はそのまま残っている。
 僕の近所にあるショッピング街も今年に入って数店閉鎖されていた。その後新しいテナントが入らないままシャッターを下ろしっぱなしにしていると、その一帯が景気悪く見える。
 元町駅近くにある知り合いの古書店へ夕刻前に行くと、店主がぽつんと座っていた。客が今日一人も来なくて、売り上げゼロの新記録になる日になりそうだと言う。台風の接近で雨の降る月曜日という事情もあるが、暇すぎる。
 商売は、儲けるための行為だが、その店を好きで続けている人もいる。収入を得るためにやり始めた商売ではなく、最初からその店がしたくてやっているのだ。
 古書店で二時間近く話し込んでいるうちに、やっと客が一人入ってきた。これで売り上げゼロの記録は出なくてすんだようだ。しかし、店主は密かに新記録を狙っていたようだ。それは余裕なのか、諦めなのかは定かではない。
 繁華街の多くは店舗でできている。店舗が変わると景観もちょっと変化する。十年経てば、馴染みの通りも一変しているだろう。何十年も、変わらず営業を続けている店はすごいと思う。
 売り上げが落ちても、じっと耐えられるだけの精神力と、心づもりがあるのだろう。下手に動かないことも大事だ。


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