川崎エッセイ 吹田もののけ紀行 その4  妖怪節穴     HOME

 

 

 片山町の商店街通っていると、何やら誰かに見られているような気になってきた。錯覚だと思いながらも、高台へ向かう路地に入り込む。妖気を感じたと言うべきか。

 坂道を登りきった場所で、妖気の正体を確認。それは板塀だった。最近見かけない懐かしいような板塀が、古い民家を囲むように立っていた。

 新建材で組み立てられた建て売り住宅ばかり見ていると、昔からある木造の家が、新鮮に見える。建物だけではなく、その周囲までしっくりと根を下ろしているようで、落ち着いた気分に浸れる。

 そこにある板塀も、しっかりと根を下ろしているため、物以上のものを感じ取れるのだ。これが「もののけ」なのだが、主観でしか浮かんでこない幻想のようなものである。

「貴様の目は節穴か!」と、言葉の上で出てくるその節穴が化けたものが「妖怪ふしあな」である。妖怪ふしあなは、ただ見ているだけの妖怪だ。この板塀のある場所は、高台にあるため、変貌を遂げる吹田市を見下ろすことができる。それに対して、別に意見も何も言わない。ただただ、見続けているだけ。

 この種の妖怪は、人や社会に対して、影響力はないのだが、節穴となって観察しつづける長者の趣がある。板塀が取り壊されることによって、その存在が消えるのは惜しい。


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