川崎エッセイ 吹田もののけ紀行 その11 妖怪座敷わらじ HOME
妖怪「座敷わらじ」は、子供の妖怪で、家に住み着き、福をもたらすと伝えられている。しかし今の吹田市内でこの妖怪がいそうな家を探すのは難しい。たとえば建て売り住宅やマンションには、まずいないとみてよい。それは単なる環境の問題である。
ところが吹田市にも岸部の町のように古い民家が奇跡的に残っている。妖怪にとっての環境とは雰囲気であり、座敷わらじが好む奥まった部屋の薄暗がりがありそうだ。
農地はなくなっても農家は残っているのだが、それを繋ぐ道は、以前の畦道程度の幅しかない。そこを車が通るのだから、時代の強引さを感じる。これでは座敷わらじも外に出れば、交通事故に遭いそうだ。
子供は聖なるものを宿している。大人になるに従い、聖なるものも、社会的なからくりに置き換えられてしまう。
座敷わらじは、純度の高い聖なるものを持ち続けている。登校拒否や引き籠もりは、社会的聖なるものとの相性が悪いためだ。
岸辺の路地を歩いていると、奇跡的に残っている田畑を発見する。もう僅かな面積しか残っていない。昔なら目印になったはずの大きな樹木も、建物の陰に隠れ気味だ。
岸辺にも座敷わらじはいないように思えた。妖怪が背負っていたものを、今は一人一人の人間が背負うことになったのかもしれない。