川崎エッセイ 吹田もののけ紀行 その13  妖怪クウバク     HOME

 バクは夢を食べる妖怪だが、クウバクは空間を食べる妖怪である。
 阪急山田駅は大阪モノレールとも繋がっており、便利のよい場所なのだが、駅前にクウバクがいるのか、よくある駅前とは趣を異にしている。元々、この駅前には何もなかったのだから、当然なのだが、未だに駅前の快い猥雑さがないのは、空間を食べる妖怪の仕業だろう。
 つまり、この妖怪はゴチャゴチャした場所が嫌いなのだ。例えば、駅なのかショッピング街なのか分からないようなはっきりとしない建物を嫌う。
 そのため、山田駅近くの住宅地も、住宅以外の建物がないような景観だ。コンビニや喫茶店や一杯飲み屋やカラオケの店が入り込むのを妖怪クウバクが邪魔をしているのかもしれない。
 この妖怪のセンスは、まさに空漠としたものを好み。区分けされた広々とした境界の空間地帯を好んで住処にしているようだ。
 しかし、取材者にとって、喫茶店が見あたらない駅前は困る。立ち食いそば屋がないのも困る。モノレール駅前も、クウバクが住み着いているのか、何もない。しかし人は行き交っているから不思議だ。
 人が周囲に住んでいないわけではなく、丘陵地にはニュータウン風な建物が並んでいる。ここは一体何処なんだと、空間の不思議さに清々しささえ覚えてしまった。
 


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