川崎エッセイ 吹田もののけ紀行 その17 妖怪なつかしがり HOME
阪急吹田駅から東へ少し入ったところに西の庄町があり、古い町並みが残っている。
ある年代の人に取り、それは懐かしい風景だ。
この種の場所に出現する妖怪が「なつかしがり」で、古き良き時代のものの近くに棲息する。
新しい道路が、町をずたずたに引き裂いたりすると、地霊的なものが怒り出すのは、町の結界が狂うためだろう。
西の庄町は駅から道路一つ渡ると、懐かしい景観に出会える町で、一種のオアシス的空間だ。
参道を歩いていると、ここは徒歩移動時代の佇まいで、これもまた懐かしい。
今の道路は自動車道路であり、その地域の人が徒歩のリズムで歩けるようには出来ていない。しかし、車道の横にある歩道が年々広くなっているのは悪くはない。
さて、妖怪なつかしがりだが、地面に張り付くように、町内を徘徊し、懐かしい香りを餌にして生きている。
「懐かし度」が高いほど、この妖怪は繁殖するのだが、年々その数は減り、絶滅寸前だ。
懐かしさとは、古いものに固執すると言う意味ではなく、そこに含まれている情緒的な何かを問題にしているのだ。
古い町並みでも不自然な開発が行われると、地霊もあいそをつかし、情緒のオーラーも出さなくなる。
帰り際、駅前に普通の喫茶店があったので寄る。今度来た時も、なつかしがりが徘徊していることを願いながら、コーヒーを香いだ。