小説 川崎サイト



ビデオ屋

川崎ゆきお



 和喜はむらっときた。
 桜の花も咲き、生命の息吹を感じる季節だった。
 久しぶりにビデオを借りようとスクーターを走らせた。
 水銀灯で浮かび上がる夜桜が目に眩しい。桜の匂いもする。
 レンタルビデオ屋は何店もあったが、今は小さな店しか残っていない。不思議と潰れないものだ。
 会員カードは切れているので、どの店でもかまわない。
 小さな店は棚は少ないが、マニアックなのを置いている。和喜は何でもよかったので、一番近くの店にした。
 まだ潰れていないらしく、テレホンカードの看板が立っている。ビデオよりこちらで食べているのだろうか。
 表からは店の中は全く見えない。以前からあるのだが、それが怖くて入ったことはなかった。
 恐る恐るポスターを張り付けた戸を開け、中に入る。
 やはり狭い店だった。テープからDVDになっているので結構詰まっている。
 しかし、レンタルかと思ったのが、全部販売品だった。会員カードを作るのも面倒なので、それでかまわない。
 レジにはお婆さんが座っていた。
 和喜は商品をレジ台に置いた。
 お婆さんは後ろのカーテンを開けた。
 和喜は驚いた。
 若い娘が座っている。
 お婆さんはメニューを差し出した。
 そういうことかと、和喜は理解した。
 娘と目が合った。
 和喜はむらっとした。
 お婆さんは手をすーと前に出し、和喜に催促した。
 和喜は財布から万札を出そうとしていたので、その流れに乗った。釣銭がもらえない程度の金額だった。
 和喜は女の手招きでカーテンの奥へ入った。
 狭い階段があり、そこを上がるとカーテンに仕切られた個室があった。
 組立式のベッドがあり、枕元にはおしぼりがいくつも積み重ねられていた。
 和喜がベッドで横になると、カーテンが閉じられた。
 しばらくして白衣に着替えたお婆さんが入って来て、マッサージを始めた。
 
   了
 
 
 
 
 

          2006年05月9日
 

 

 

小説 川崎サイト