小説 川崎サイト

 

ゲリラ豪雨

川崎ゆきお



 夏祭りの音が鳴っている。学校の校庭で自治会がやっているのだろう。
 神も仏もいない夏祭りだ。
 その町内に、昔からある神社がある。神主はいない。氏子代表が一応管理しているが、放置状態だ。昔は広かった境内も、今は社殿だけの面積で、安っぽい分譲住宅の一戸建て程度の広さだ。
 放置状態が幸いしたのか、氏神様が戻ってきた。この神社は神道系の神様ではなく、水神様だ。田圃があった時代の神様で、水の恵みをもたらす。もう必要のなくなった神様だ。田植えをするような農家も消えている。
 水神様は久しぶりに降り立ったのは、目立たない神社のためだ。
 水神神社には御神体はない。そんなとき、間に合わせで蛇の模様で縁取られた鏡を置くものだ。
 降臨した水神様は、しばらく社殿で滞在した。お参りに来る人がないため、静かでよいのだ。
 しかし、今宵の夏祭りは気になる。うるさいのではなく、誰の為の祭りなのかが気になるのだ。当然放置状態の自分の神社の祭りとは思えない。
 そこで、水神様は、見学に出た。
 昔田圃だった場所に小学校ができており、その校庭のようだ。
「まてよ」
 水神様は、昔の地図を頭で思い出した。
 その田圃の近くに溜め池があり、自分の分身の蛇石が置かれていたはずだ。
 小学校の敷地は、その溜め池も含まれているようだ。
 小学校はネットで囲まれ、檻のようになっていた。
 水神様はベタ足で校門から中に入る。
 地元出身の国会議員がスピーチ中だ。夏祭り運営の寄付金を出しているのだろう。
 模擬店が校庭を囲み、その中央に櫓が組まれ、近所の人が踊っている。
 メインで踊っているのは、主婦と小学生だ。この学校の生徒だろう。夏祭りの童謡が鳴り響いている。見たことのない振り付けだ。
 水神様は朝礼台に立つ議員を見ながら、古い地図と重ねる。
「まさか」
 蛇石のあった場所に議院が立っているのだ。
 水神様は人間には見えない。すけすけなのだ。
「この罰当たりが」と、水神様は怒り、雨を降らせた。
 にわかに雨。つまり、にわか雨となる。
 昔は恵みの雨だったが、今は怒りの雨で、その降り方も朝礼台だけに集中した。

   了
 


2009年7月18日

小説 川崎サイト