貴人神社
川崎ゆきお
中央の貴族が流罪になった。その旅の途中立ち寄った村がある。浜があり、そこから船が出る。
船出まで三日、その貴族は村に滞在した。天気が悪く、なかなか船が出せなかったのだ。
貴族は村の長老宅で過ごした。古くからある村で、中央とも関係する村だ。
長老は高貴なお方を見るのは初めてで、そんな貴人を接待するのは、名誉なことだと感じた。
しかし、流罪の貴人なので、大っぴらに歓迎できない。
いわば、刑が確定した犯罪者なのだ。
長老は冤罪ではないかと思った。謀反を企み、反乱を起こす人には見えなかったのだ。
たった三日の滞在だが、村人は、季節の野菜や果物を貴人に届けた。
村人にとり、天上人である貴人は神に近い存在だ。
だから、氏神様のお供えのようなものを持ち寄ったのだ。
この行為が罪に当たるのを恐れ、村の主だった家が、割り振りした。茄子を用意する家、キュウリを用意する家、餅を用意する家、近海で釣った鯛を用意する家、等々だ。
これで、中央から文句が出ても、村全体の責任になり、咎められても村人全員ということになる。こちらの方が安全なのだ。
村人は三日間、流罪の貴人を慰めた。
果たして、効果があったのかどうかはわからない。中央には戻れないし、下手をすると、流罪地で殺されるかもしれないので、それどころではなかったようだ。
そして、貴人は旅だった。
村人は貴人を祭る神社を建てた。流罪先でお隠れになられたのだ。
そして、毎年貴人が滞在した三日間、人に見られない真夜中にお供えものを運んだ。村の主だった家は、今もそのときと同じ野菜や果実を分担で運んだが、数十年前からは鯛だけは買わないといけなくなった。
そして、村は郊外の住宅地となり、田畑もなくなり、野菜類も買わなくてはいけなくなった。
だが、お供えもの分担の家は、今も残り、神社も残っている。了
2009年7月28日