小説 川崎サイト

 

不思議な村

川崎ゆきお



 村の長老は、長年長老をやっている家だ。世襲制ということだ。
 それで長年長く長老職をつとめてきた。長年とはかなり長い意で、千年以上続いている。それは村ができた頃と合致する。
 千年も村が継続するのは、よほどのことだ。山と山に囲まれた窪地のような場所のため、時の流れも穏やかなのだ。
 しかし、この穏やかさを覆すような出来事が旅人によってもたらされた。
 村人が今まで見たことのない旅人だった。
 旅人は、こんなところに村があることを知らなかったらしい。
 山深く草深い場所なので、山また山が続く場所だと思っていただけではない。
 地図があれば、村の存在はあらかじめわかるはずだ。
 村人は地図を見ていなかったのだが、実は地図に載っていない村なのだ。
 旅人が驚いたのは、村人の服装だった。大昔に出てくるよう服装に見えるが、時代劇にも出てこない服装なのだ。
 旅人は、古代民族のイベント村ではないかと最初思った。
 家は粗末な木造で、丸太を組み、板を張り付けたり、粘土で塗り固めたりしている。
 窪地のような場所だが農地があり、見たことのない作物を栽培しているようだ。
 ここが民族村なら、村人はエキストラのようなものだ。コスプレをやっていることになる。それなら、着替えがあるはずだ。
 また、これを主催している人がいるはずだ。
 村人はそう思い、村中を探したが、まともな服装の人はいない。
 村人に話しかけたが、言葉がわからないようだ。所々意味が通じるようだが、発音がかなり違う。きつい方言を聞いているような感じだ。
 村人は旅人を長老の前に連れていった。
 長老も、この旅人が何者であるかはわからない。
 しかし、さすがに長老だけあって、昔の言い伝えを思い出した。この村の話ではなく、近くの村で、今回と同じことがあったのだ。
 その話によると、村にきた旅人は帰れなくなり、そのまま村人になったようだ。
 何でもない山で遭難し、行方不明者となることもあるようだ。

   了

 


2009年8月7日

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