小説 川崎サイト

 

姫の籠城

川崎ゆきお



 姫山と呼ばれる山がある。城のあった山だ。山の名は、昔はなかった。城ができてからは館山と呼ばれた。
 このあたりの村落のまとめ役のような地侍が、防御のために造った砦のようなものだ。
 他の勢力が襲ってきたとき、村人が逃げ込める場所でもある。
 この小さな勢力は、方針を誤り、他の勢力との戦いになる。
 小さな勢力は、連合し、さらなる大きな勢力を寄り親にするものだ。この一帯の小勢力はいつもの寄り親勢力についたが、それが誤りだった。しかし、一つの小さな勢力だけが別の大勢力につくことは地理的に不可能だ。
 戦いが始まる前に、村人は逃げ出した。地侍の城にではなく、別の土地へだ。一緒にたて籠もっても負けることが決まっている。
 山の上にある砦のような城に籠もったのは地侍一族だけだ。
 しかし城内でも負けることがわかっているので、逃げ出す者がいた。
 その数は日を追うに従い増え。たて籠もったものは城主と、その姫だけになった。
 山また山の土地だけに、逃げることはいつでもできる。また、状況が変われば戻ってこれなくもない。そのとき、最後までたて籠もり、意地を示す方がいい。
 しかし、周辺の似たような砦は次々に落とされた。もうここまでくれば、無駄死にになるし、戦える兵力もないため、城主は逃げた。
 しかし、姫は逃げなかった。
 よほど城の居心地がよかったのだろう。かなり贅沢な暮らしぶりだった。それを捨てるのが嫌で、残ったのだ。
 それで、姫だけが籠もる城になった。
 山城の下の村は既に無人で、略奪されそうなものは、持ち去っている。
 そして、敵勢力の兵が来襲した。
 しかし、姫の籠もる城は無視された。
 村に略奪物はなく、城のお宝も、城主が既に持ち出しているだけで、空箱だったからだ。
 敵勢力は城に姫がいることを知っていたが、それも無視した。
 不細工だったからだ。

   了

 


2009年8月10日

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