小説 川崎サイト

 

カッパの復讐

川崎ゆきお



 小学生の真一は夜中目を覚ました。ぬるっとした感触が腕にある。
 それが胸元から首筋、顎の下にまで来た。
 真一は襲ってきたものを突き放した。
 キキキキ
 豆電球だけなので、部屋は暗い。
 キキキキと音のするものの姿が見えない。
 再びそれがぶつかってきた。
 真一は立ち上がり、蛍光灯のひもを引いた。
 キキキキの正体が見えた。
 大きな蛙のように見えるが、首がくびれ頭がついている。顔は人の顔だ。
「カッパ」
 真一は昼間、小川で大きなカエルようなものが動くのを見た覚えがある。そのとき小便をしていたことも思い出す。
 カッパは真一を睨みつけている。今にも飛びかかりそうな勢いだ。
 窓を見ると、網戸が破られている。ここから入り込んだのだ。
 真一は夢ではないかと疑うほどの余裕はない。
 小便をこのカッパにかけたので、その復讐に来たのだと思った。寝込みを襲うつもりだったのだ。
 カッパはカエルのように飛び上がり、真一の顔面を襲った。ぬるっとしたものが鼻と頬に当たった。
 カッパは着地し、大きな口を開けた。しかし歯はない。
 真一は指でぬるっとしたものをこすった。青汁が指についた。それ以上に大変な悪臭だ。
 真一はその臭いでぐらっとし、卒倒しそうになった。
 真一はベッドの上で正座し、謝る格好をした。土下座のスタイルだ。
 しかし、カッパは意味が分からないらしい。
 じっと真一を睨みつけている。
 真一はどうしていいのかわからない。カッパに夜襲をかけられたときの対処法など習っていないからだ。
 真一一家は二ヶ月前に、郊外の自然豊かな場所に引っ越してきた。
 外来種のカエルかもしれない。しかし、人を襲うカエルなど聞いたことがないし、昼間のことを根に持ち、夜に襲ってくるなど、カエルではできない芸当だろう。
 真一は気絶した真似をした。
 すると、カッパはそれ以上襲ってこなくなった。
 真一は目を閉じたまま、眠ってしまった。
 朝、母親の声で起き、両親と一緒に食事をとる。
 いやな臭いが残っている。
 学校へ行くため、玄関にでると、表に水をまいたあとがある。何かを洗ったあとだ。
 母親に聞くと、大きなカエルが家にいたので、叩き出して、長箒で叩きのめしたらしい。
「カッパは?」
「ゴミ回収車、来てたから、生ゴミでだしたわ」
 カッパに襲われたのは夢ではなかったのだ。
 しかし、あり得ない話だ。

   了

 


2009年8月19日

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