小説 川崎サイト



眠京志郎

川崎ゆきお



 眠るのが好きな男だった。人生最大の楽しみは眠ることだという。
 一日の目的もそれで、メインは眠ることだった。
 しかし一日中眠ってられない。いくら好きなことでも目が覚めると、もう眠ることは出来ない。
 眠ることが好きなので、ひと以上に睡眠時間は長い。だから一度起きると夜までしっかり起きている。
 目覚めはよい。寝入るときも好きだが、目覚めるときも好きなのだ。
 しかし、一度起きてしまうと、寝るまでの時間が退屈だ。
 京志郎はその間、何でもいいから時間を持たせればよいと考えていた。目的が昼間にあるのではなく、夜にあった。
 しかし夜の世界を楽しむにしては、単に眠るだけのことなので、これは誰にでも出来ることだ。
 学校を出てからずっと同じ会社で勤めている。無遅刻で、ずる休みもない。
 どんな仕事でもよかった。人生の目標とかは仕事の上にはなかった。気分よく眠れれば、それでよいのだ。
 さすがにそのことはずっと黙っていた。眠るのが目的とは、かなり妙な話で、誰でも手に入れられる目標だ。
 京志郎は見た目は普通の男だが、僅かな人間にしか見せたことのないコレクションがある。それはパジャマで、洋服ダンスにずらりと吊るされている。
 会社から戻るとパジャマに着替える。早く眠りたいためだが、寝るにはまだ時間がある。
 徐々に眠くなるように、難しい本を読んだり、難解な映画を観る。よく分からなくてもいいのだ、眠気を催せば成功なのだ。
 テレビや本はベッドで楽しむ。徐々に眠気がきたとき、流れが途切れないまま、寝入ってしまえるように、立ち上がらなくてもよい工夫がなされている。
 眠っているときは、意識は落ちるが、夢を見る。それも楽しみの一つで、眠るのが好きなのも、夢を鑑賞出来るからだ。
 昼間あったことが、何かに置き換えらて上映される。
 起きたとき、あれは昼間見たあれだな……とか、思い出すのも楽しみになっている。
 京志郎は健康を維持している。そうでないと寝付きや目覚めも悪いからだ。
 人には公言できない隠しネタがあるものだ。
 
   了
 
 
 
 

          2006年05月17日
 

 

 

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