小説 川崎サイト

 

ブログの季節

川崎ゆきお



「季節は夏になっていた」
 と、あるだけのブログ記事で終わっている。そのブログ主は毎日長文の日記を書いている。それが一行で終わっており、ブログへの投稿もそこで終わっている。
 毎日、そのブログを読んでいた吉田は気になった。最後の記事から一週間経つ。それほど長く間が空くことは、今までなかったからだ。
 それより吉田はなぜこの人の日記を毎日読んでいたのだろうと、ふと考える。
 ある日、検索に引っかかった。キーワードの言葉は忘れたが、流し読みすると、結構面白い。
 その面白さとは何だろうかと、今改めて考える。実は全く面白くないことが、面白かったのだ。何でもないことをだらだら書いている。本人にしかわからないような些細な話だ。だが、それを読んでいるうちに平和な気分になれた。
 朝、なにを食べたとか、駅までの道に赤い花が咲いていたが、名前は知らない、とかだ。
 記事に対してのコメントを投稿できないようにしているわけではなさそうだが、誰もコメントしていない。
 吉田にとって、このブログは通りすがりに寄っただけの場所だ。その後、常連になったが、ブログ主は吉田が毎日読んでいることを知らないだろう。だから全くの一方通行だ。
 吉田はコメントをつけたい気になったこともあった。しかし、途中まで書いたところで、文章がまとまらず、なにが言いたいのかが見えなくなった。当然相手にも伝わらないだろう。それに未だかって一つのコメントもないブログなのだから、投稿すればブログ主がパニックになるかもしれない。いらぬ刺激を与えたくないし、吉田もそんな刺激的なことはしたくない。
 しかし、心配だ。
 一週間の留守は長い。
 そのブログは三年前から作られており、ほぼ毎日投稿されている。病気で入院したのだろうか。それなら、何らかのヒントがそれまでのブログ記事の中にあるはずだ。
 残るのは突然起こった交通事故だろう。
 吉田は、その後も、そのブログへ毎日訪れた。
 季節は秋になっていた。しかし、そのブログは「季節は夏になっていた」のまま動いていない。

   了



2009年8月22日

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