小説 川崎サイト

 

マニアの世界

川崎ゆきお



 柏崎はゲームの中に出てくる町を友人に語った。
「そこは町なのに日用品を売っていない。日常品かな」
「店屋がないの?」
「あるけど、武器屋とか防具屋だ」
「冒険家だけが利用する町なのかな。冒険家しか来ない町なんだよ」
「宿屋もない」
「必要ないからだろ」
「武器屋はあるけど、四種類の店がある。同じように武器が売られているんだけど、そして、武器しか置いていないんだけど、武器屋だけで四店もあるんだ」
「どうして四店あるんだ」
「冒険家のタイプによって違うんだ。剣士は魔法使いの杖は使えない。まあ、使えたとしても修行していないので、威力はないんだ」
「それって、何かを特化した世界だね」
「ああ、冒険のための町だから」
「いや、リアルの世界でもあるよ。たとえば町に出ても立ち寄る店って限られているでしょ。店屋はいっぱいあるけど、行く所は決まっている。ジャンルが決まっているような感じかな。僕なんて中古カメラが好きだから、町に出るとカメラ屋しか行かない。まあ、食べ物屋にも入るけどね。それは目的じゃない」
「カメラ屋も数が多いの?」
「日本製の安いのばかり売ってる店とか、舶来の高いカメラの専門店とか。中版カメラが得意な店とか。コンパクトカメラが多い店とか」
「専門店なんだ」
「最近フィルムカメラを使わなくなったから、町に出ても寄る場所がないんだ」
「じゃ、君の目にはカメラ屋しかない町だったんだね」
「そうそう、だから、武器屋だけの町に近いんだ。だから、不思議でも何でもない。よくあるパターンだよ」
「でも、中古カメラ屋はまだあるんだろ」
「あるけど、デジカメに換えてから、ないのと同じだよ。興味対象からはずれたから」
「じゃ、デジカメ売ってる店なら行くんでしょ」
「デジカメは近所の電気屋でも売ってるし、ネットでも売ってる」
「中古デジカメ店はないの」
「中古デジカメには興味はないんだ。少し古いタイプならいいけど、それ以上古いとバッテリーがなかったりするから、使えないんだ」
「でも、君は中古カメラマニアだろ。デジカメの中古にも興味があると思ったんだけど」
「いや、別にマニアじゃないよ。気に入ったカメラを探しているだけさ」
「だから、それをマニアって言うんだよ」
「え、どうして?」
「カメラは写すのが目的だろ。カメラを探すのが目的じゃないから」
「あ、そうだね」
「それでね、そのゲームの中の町にはポータルがあるんだ。それで、いろいろなところへ移動できる。瞬間移動さ」
「それって、面白いの? 架空の世界の話でしょ」
「いろいろな仕掛けがあるから面白いんだ」
「そんなの現実では役立たないから、それもマニアの世界だね」
「ああ、そうなんだ」

   了


2009年8月29日

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