小説 川崎サイト

 

四角い

川崎ゆきお



 吉岡は滅多にテレビを見ない。
 友人の岸和田のアパートへ行ったときの話だ。
「何だこれは」
 吉岡がテレビを指さす。
「どうした」
 ビールのつまみを皿に盛っていた岸和田が聞く。この場合、訳を聞くというのではなく、ただの愛想だろう。相手になってやっているという程度だ。
 岸和田もテレビを見る。
「ニュースか」
 ニュース番組をやっている。
「何のニュース?」
「それより、この人」
「事故に遭った人かい」
「アナウンサーだ」
「えっ」
「なんだいこの四角い顔は、四角すぎるじゃないか。こんな顔、見たことないよ。これこそニュースじゃない。ニュースなんて読んでる場合じゃないよ」
 確かに見事なまでに四角い顔のアナウンサーだ。まるでサイコロのようだ。
「そういえば四角いか」
 岸和田も同意する。
「こんな四角い顔、テレビに出ていいの。ここまで四角いとまずいんじゃない」
「でも、アナウンサーとして採用されたんだろ。問題ないよ」
「しかし、ここまで四角いと、その印象が伝わりすぎて、報道の邪魔にならないかなあ」
「顔で選んだ訳じゃないだろ。それに肉体攻撃は御法度だし」
「しかし、テーブルの線と顎の線が平行じゃないか。縦もそうだ。テレビのフレームと平行だ」
「そんなの見ている人、いないよ。そういうことは言わない約束なんだよ」
「最近のテレビ変わったねえ。昔はこんなアナウンサーテレビには出れなかったのに」
 吉岡は不審げにテレビを見ている。
 岸和田は今まで気にならなかったが、その四角いアナウンサーより、よほど吉岡の方が四角いことに気づいた。

   了
  


2009年8月31日

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