怖い集団
川崎ゆきお
工場裏の雑雑とした場所で、三村青年は驚くべき集団を見た。
家に戻った三村は青ざめた顔で家族と夕食をとった。
元々青ざめて顔なので、家族は気にならない。しかし、箸が進まないことで、祖父が気づいた。
「どうした。病気か」
「あり得ないよ、爺ちゃん」
「病気じゃないと」
「変な集団を見たんだ」
「世の中にはそういうこともある」
「あの工場裏、危ないよ」
「アパートが多いところじゃな」
「貧民街だよ」
「で、何が危ないんだ」
「十人以上集まってるんだ」
「地蔵盆かい」
「違う。そんな行事には見えない」
「じゃ、何だ」
「わからないけど、怪しい集団なんだ」
「その程度のことで、食欲がないのか。何かされたのか」
「別に」
「じゃ、何だ?」
「見たら睨み返された」
「それだけか?」
「あんな連中見たことない。何の集団なんだろう」
「世の中には訳の分からない集団がいるものだ。驚くにあたらん」
「普通の人じゃないんだ。何か、秘密結社のような」
「世の中にはそういうものがある。わしらが知らないだけで、世の中にはとんでもない団体があるものだ」
「でも……」
「若い頃は、経験不足で、あわてたりするものだ」
「でも、ショックで」
「年をとると、いろいろ経験し、驚かなくなるものだ」
「でも、顔が……」
「世の中には多種多様な顔がある。いちいち騒ぐようなことではなかろう」
「怖いんだ。顔が犬なんだ」
「今、なんて言った。もう一度」
「顔が犬なんだ。牛のような顔の大男もいた。顔だけだよ。体は人間だよ」
「世の中には……」
「いないでしょ。そんな人」
「被っておるんじゃろ。犬とか牛とかの頭を」
「でも、どうしてそんなの被るの」
「世の中には、想像を超えたものがある。それは知らないだけで、事情を知れば、なーんだ、そんなことだったのか、と、なるんだ」
「でも、大きな蛇もいたよ。こっちは顔だけ人間だった」
「それはなあ……」
「それは何、お爺ちゃん」
「おまえ、明日病院行きなさい」了
2009年9月1日