小説 川崎サイト

 

大学の妖怪博士

川崎ゆきお



 視点を変えると世界が違って見える。しかし、それまで見ていた世界も、世界の一部だろう。ものの見方は背景により変化する。
 物の怪も、そういう感じで存在する。
 妖怪博士はそう大学で講演した。正確には大学の部活で呼ばれた。妖怪研究部だ。
 そのことがあってから妖怪博士は大学で呼ばれ、講演したと語るようになる。嘘ではない。そう変化(へんげ)しただけのことだ。
 妖怪研究部員は、妙な年寄りが来て、わけの分からないことを話して帰った程度にとらえた。他の学生がそう語るのならまだしも、呼んだ部員たちが言うのだから、よほど受けが悪かったのだろう。
 これは部員たちが妖怪がいることを前提に活動を続けているのに対し、妖怪博士はそれを覆すような態度に出たためだ。
 部員も本当に妖怪が存在するとは誰一人思っていない。それが分かった上での遊びなのだ。嘘でもいいから妖怪は存在していることになっている。
 妖怪研究部員と妖怪博士のレベルはそれほど違わない。どちらも専門的な知識はない。しかし、部員のほうが資料を多く持っている。
 部員たちは自分たちより多くの資料や知識を妖怪博士が持っていることを期待していたようだ。それで、自分たちがまだ知らない妖怪の話を聞きたかったのだ。
 では妖怪博士は何を研究していたのだろう。
 部員の一人が妖怪博士そのものが妖怪ではないかと冗談を飛ばした。その存在そのものが怪しいのだ。
 それで、講演の総括で、自分たちが呼んだのは研究者ではなく、妖怪だと結論づけた。
 そして、妖怪データーベースの中に妖怪博士を入れた。これで、講演で呼んだことの失敗をすり替えた。
 自分の都合のいいものは上に置き、都合の悪いことは底に置いて、それほど重要ではないとすることはよくある。当然だろう。都合の悪いことを前面に出すと不利だからだ。
 妖怪博士の講演で一番部員たちが気に入らなかったことは「妖怪で遊ぶな」という一言だった。

   了


2009年9月11日

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