小説 川崎サイト

 

長い爪

川崎ゆきお



 朝起きると左手の中指の爪が二センチほど伸びていた。
 そなことがあると驚くだろう。あり得ないことだが、なぜ左手の中指なのかと考えると、何かありそうだ。
 しかし、そもそも指が一晩でそんなに伸びることはない。だから、左手も右手でも、どちらであっても問題はない。また全部の指が伸びていないことを不審に思う必要もない。
 ここまで伸びたのだから、同じ爪である足の爪も伸びていないとおかしいと思う。
 だが、ポイントは一本の指先だけが伸びていることだ。全部の爪が伸びていれば、靴下もはけないし、靴も履けないだろう。まあ、切ればいいのだが、そういう問題ではない。簡単なことで解決するが、爪が一晩で伸びた事実は解決しない。何か原因があるはずで、切ればすむ問題ではない。
 伸びてしまった中指の爪は、まっすぐではなく、鍵のように伸びている。大きくカーブしている。
 爪は皮膚の進化したものだから、皮膚科に行くべきだろうか。その場合、伸びたまま行くほうがわかりやすい。切ってしまうと嘘をついているように思われる。
 きっと医者は、そういう事例を知っており、あるかもしれないと言うかもしれない。
 青葉の季節、新しい枝が一晩でかなり伸びることがある。それを見た記憶はあるが、爪がそんなに伸びてしまう話は聞いたことはない。
 前例がないとすれば、貴重なサンプルにされてしまう。だから、医者には行かず、切ってしまえばいい。
 ここまで長いと爪切りでは無理だ。そこではさみで大まかに切り、残りは爪切りで切った。
 別に痛くはない。長く伸びた爪を爪切りで切るとき、パチンと振動し、爪が割れるのではないかと思うほど響くことがある。それに比べれば切りやすい。
 その日は寝るまで爪を観察したが、伸びていない。
 そして翌朝、爪を見ると、やはり伸びていない。
 では、あの伸び方は何だったのか。
 不思議な話だが、それで済ませていいのだろうか。

   了


2009年9月17日

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