小説 川崎サイト



旅するニーナ

川崎ゆきお



 少女ニーナは村を旅だった。
 本当の母親を探す旅だった。
 母親はニーナが生まれて一年後、村から姿を消した。
 母の唇の右にホクロがあるらしい。手掛かりはそれだけ。
 ひと月経過した。ニーナがその村に入ったとき、同じように旅する少年ジョンと出会った。年上だった。
「ニーナはどこから来たんだ」
「クロス村よ」
「俺はタノウ村だ」
「通ったわ。タノウ村」
「貧しい村だろ」
「うん、でも優しく迎えてくれたわ」
「それはニーナが女の子だからさ。だけど旅人を泊めるような家なんてあったのかい」
「村長さんの家」
「あそこなら、ちょっとは金持ちだ。牛持ちだしな。俺んちは鍛冶屋だ。見なかった?」
「夜に到着して、朝に旅立ったから知らないわ」
「今夜泊まるところあるの? 俺は納屋を貸してもらった。そのかわり三日間は刃物研ぎさ」
「わたしは村長さんち」
「いいなあ、女の子は」
「ジョンはこれから何処へ行くの」
「ここから一番近い村だからアマン村かな」
「どうして旅してるの?」
「本当のお母さんがいたのを知ったんだ」
「わたしもよ」
「じゃあ、同じ目的だ」
「お母さんがいる場所、知ってるの?」
「知らないよ」
「私も知らないけど手掛かりがあるの」
「俺もあるよ」
「口元にホクロがあるの。右側」
「同じだよ。じゃあ、同じ人だぜ」
「わたしたち兄妹」
「そうかもな」
「一緒に探さない」
「足でまといだ」
「早く歩くから?」
「足手まといは俺だよ」
「え、どうして」
「村長の家と、鍛冶屋の納屋との違いさ」
 二人は、この村で別れた。
 故郷を出て十カ月後、ニーナは口元にホクロのある子供を生んだ。
 どの村の村長の子かは想像出来た。
 ジョンは母親にやっと巡り会えたが、生んだ覚えはあると、語るだけだった。
 
   了
 


 

          2006年05月21日
 

 

 

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