小説 川崎サイト

 

雑軍

川崎ゆきお



「今だー一斉に攻めかかれー」
 雑軍部隊の大将が馬上で叫ぶ。
「急げ急げー」
 最前線で敵軍と遭遇したようだ。
 雑軍部隊の兵はほとんどが傭兵だ。戦闘期間中の食料がもらえるだけの軽い賃金だ。
 それでもその間食べ物には困らないし、うまくいけば攻め込んだ村でいろいろなものが持ち帰れる。
 その雑軍部隊が全体の六割を占めていた。臨時雇用兵を入れることで兵力の多さを敵に示すためだ。
「敵に押されています、早く前線へ」
 伝令が雑軍大将に伝える。
「急げ急げー」
 最後尾の兵は寝ていた。
「おい、突っ込めと言ってるぞ」
「分かってる」
「わしは小便をしてから行く」
「それがしは大便を」
 雑軍ほど戦局に敏感で、不利だと思えば動かない。
「押されているみたいだな」
「いや、まだ、分からん」
 最後尾の兵は鎧をつけていないものもいる。戦場で拾った槍だけで加わっているいるものもいる。中には竹槍もいる。
 雑軍の大将は正規兵だが、見せかけの水増し兵を増やすのが目的なので、戦闘能力を問わないで雇っている。兵糧が届く間は雇える。長引くと米代がかさむので、できるだけ早く決着を付けたい。
「あと一押しだー、突っ込めー」
 本当は押されているのだが、嘘を言い、有利に展開しているように傭兵たちに聞かせる。
 有利なら、前線に出たほうが強奪品を早く盗れる。
「わしゃ、にぎりめしだけでいいよ」
 最後尾の連中はがつがつしていない。前線へ行くほどリスクが高くなる。もし敵が総崩れすれば、最後尾でも獲物の残り物が得られる。ゆっくりでいいのだ。
 雑軍の大将が後退し始めた。
 押されているのだ。
「引くな引くなー」と、叫んでいる大将が引いている。
 矢が飛んでくるのが見える。
「駄目だこれや」
 最後尾で寝ていた男がまっさに逃げ出した。かなりのスピードだ。
 それを追うように他の雑兵も、信じられないような早さで逃走した。
 そして、非戦闘部隊である荷駄帯を襲い、食料品を奪った。
 戦いは負け出すと悲惨だ。

   了


2009年10月5日

小説 川崎サイト