幽霊客
川崎ゆきお
駅前は殺風景で何もない。ただ駅があるだけの町だ。私鉄本線の各駅停車だけが止まる。都心から少しはずれているが、周囲は市街地だ。
この町に駅ができたのは、深い意味はない。駅と駅の間隔が開きすぎるので、どこかに一駅設けただけ。
その駅から少し離れた雑居ビルに心霊研究所がある。
「流行らない」
所長の高岡がぼやく。
以前は事務員を雇っていたが、実入りがないので解雇した。今度は本人を解雇しないといけない状態だ。
「心霊研究など、もはや時代遅れではやらないのだ」
高岡は毎日事務所に通っているのだが、もう、そこでやるような作業はない。掃除する程度だ。
電話のベル。
また、セールス電話だろうと、受話器を取るが声を出さないで黙っていた。
「心霊研究所ですか」
そうです。と、高岡は答えない。電話帳に載っているので、それを見てのセールスだと思った。四日に一度ぐらい、そういうのがある。
「わたくしは霊について調べてもらいたいものなのですが」
高岡はどきりとした。ここ二年ほど、心霊関係の用件で電話がかかることはなかったからだ。
「どういうことでしょう」
高岡は応対マニュアルを忘れてしまっていた。客の様子がどうなのかと聞いているのだが、こういう電話がかかってくるのは、どういうことだろうかと、そちらの方に注意がいった。
「幽霊が出るのですが、どうすればいいでしょうか」
高岡は駅から事務所までの道順を伝えた。
「はい、お伺いします。相談に乗ってください」
客は、その日のうちには来なかった。
翌日も来なかった。
道を間違えたのなら、電話がかかってくるはずだ。
または、都合で、なかなか来れないのだろうか。
「日時を聞いておればよかった」
それから一週間ほど経過するが、電話の主は現れない。
それでも高岡は事務所に来る用ができたと思い、満更嫌でもない。了
2009年10月13日