小説 川崎サイト

 

寄り場

川崎ゆきお



 秋とはいえ寒い日が続いていた。雨も数日降り続け、台風らしきものもこの地をかすった。
 久しぶりの秋晴れで、昼間の気温が上がり、陽気な気分になったのか、神社の石段前が賑やかだ。
 そこは近所の老人の寄り場になっており、誰が設えたのか粗末な長椅子や大型ゴミの日に出そうな禿かかったソファーが並んでいる。
 前日の雨でスポンジにしみこんだ水分がまだ乾燥してないためか、そこに座る人はいない。
 寄り合い老人の人数は空模様により決まるようで、この季節、晴れて暖かい日は出席率が高い。
 老人たちは一応神社にお参りする。寄り場はそのついでだが、神様より、人の気配のほうに人気があるようだ。当然だろう。神様相手では、ただの独り言になる。
「彼岸の時ねえ、マイカーでお参りに行った家族、交通事故で全滅したじゃない。あれって、なんだろうねえ」
「そうだねえ、ご先祖様を大事に供養しに行ったのにねえ。いい家族じゃないの。これって善行じゃないの。なのにその帰り道事故だろ」
「供養の仕方が悪かったんじゃないかね。墓の位置が悪いとか」
「墓なんてない家族だっているじゃない。それに比べりゃ先祖の墓があるだけでもましじゃない。それにさあ、供養の仕方が悪いってだけで、お参りに来た家族にそんな仕打ちするかねえ」
「だから、墓参りと交通事故は関係ないんだよ」
「偶然かもしれないけど、皮肉な話じゃない。先祖は子孫を守らないのかねえ」
「どうやって守るのさ」
「何かの都合で、出発遅れたとか、早く出すぎたとかでさ、悪い偶然をこっそりずらすんだよ」
「でもねえ、マイカーじゃなくてさ、電車とかバスで行ったらどうなんだろうねえ。そんな事故起きなかったと思わないかね」
「そうだね。電車の事故って、滅多にないしね、バスはあるかもしれないけどさ。路線バスはあまりないよ」
「マイクロバスはあるよね。これだって、お寺参りのマイクロバスとかさあ」
「得体が知れないんじゃない」
「何のだい」
「ご先祖さんだよ。別のものになってるかもしれないじゃない。それでさ、先祖の墓に別のものが入り込んでいたりしてね。とんでもないものにお参りしていたりとかね」
 今日は気候がいいためか、話が盛り上がっているようだ。

   了


2009年10月20日

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