小説 川崎サイト

 

窓際係長

川崎ゆきお



「この人なんですがね」
 プロジェクターにさえない中年男が映し出される。頭は中途半端に禿げ、ヒナの産毛のようだ。あまり人前に出せないタイプだ。
 押し出しがなく、貧相だ。
「山岡係長です」
「いわゆる窓際係長かね」
「典型例です。部下からも上司からも相手にされないタダメシグイのような存在です。役立たずそのものです」
「うむ」
「部下は七人、この部屋には課長がいます。だから、この係長は必要ないのです」
「つまり、年のいった平社員というだけか」
「山岡係長の同期の中には部長もいます」
「しかし君、そんな役立たずでは……」
「あり得ない存在です。だが、山岡係長はそれを可能にしているのです」
「経営陣の縁者じゃないのかね」
「全く関係はありません。親族でも、遠縁でも、何らかの事情で、社員待遇にしているわけでもないようです」
「意味が分からん」
「窓際族など存在しません」
「自主退職させようと、追いやっているんじゃないのかね」
「もう十年も係長です。大変な実力者だとは思いませんか」
「力があれば、もっと上に行ってるだろ。同期は部長だろ」
「彼は、そっちを選ばなかった。窓際を選んでいるのです。誰からも期待されない状態で、維持できるのは、力です。かなりの戦略がなければそういう状態に持ち込めませんよ」
「私なら首にする」
「しかし、彼はそうならないで残っている。しかも、作意的に今の地位を維持しようとしています」
「謎だね」
「どうです」
「入れるのか?」
「はい」
 山岡係長は引き抜かれた。
 しかし、期待していたような謎はなかった。
 運良く、残っていただけのことだった。
 
   了



2009年10月28日

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