小説 川崎サイト

 

気分の天気

川崎ゆきお



「また天気の話ですか?」
「気分の話だ」
「天気が変わりやすいように、気分も変わりやすい人、いますよね。そういう話ですか」
「まあそうだ。気分の天気の話だ」
「どう、面白がればいいのでしょうか」
「いや、面白い話じゃない」
「あ、じゃ、期待しないで聞きます」
「こうして語るときはね、実は私もできるだけ受けるように心がけておる」
「そうだったんですか。まるで芸人のように……」
「同じ話すなら、喋るなら、楽しく語りたい」
「それは、聞く側を気にしてのことですか」
「そうだね、気遣いだ。受けないと、話していても、真剣に聞いてくれないからね。相手が乗ってこないと、喋っていても面白くない。それは愉快な話でも、小言や説教でも同じだ」
「それで、気分と天気の話ですが……」
「気分の天気の話だ。気分は天気の影響を受ける。この場合の天気とは空模様のことじゃないよ。いろいろな現象だ。嫌なものを見たとか、楽しいものを見たとか、そういう外部の刺激だ」
「外部の刺激が天気なのですね」
「そうだ。まあ、内部もあるがね。歯が痛いときは、気持ちも苛立つ。しかし、それは納得できることなので、ここでは問題としない」
「では、今日の天気はどうですか」
「ふつうだ。君がふつうだから、良くも悪くもない」
「僕はふつうなんですか」
「人並み、すなわち平年並みだ」
「平年並み。おかしいですねえ」
「面白いかね。受けたかね」
「はい、平年並みの人間なんて、言われたことないですから」
「年じゃなく、月の方がいいかもな」
「ああ、月並み、それならわかります」
「でも、それじゃおかしさに欠けるだろ」
「そんな、気をつかってもらわなくてもいいですよ」
「君が平年並みなので、私の気分もそれに引っ張られる。そういうことだ」
「それが、気分の天気と言うことなんでしょうか」
「うん、そうだ」

   了



2009年10月29日

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