小説 川崎サイト

 

幽霊による殺人

川崎ゆきお



「それが本当に不可解な何者かの、つまり人ではないもの、動物でもなく、あり得ないようなレベルのものが関与した事件なのか、あるいは、それが人為的な犯罪なのか、博士はどちらへ落とすのが好ましいと思われますか」
 博士と呼ばれる心霊博士は、その問いに答えようと、少し考えている。
「当然博士ならこの世のものではない存在を認めておられると思います。それゆえ、これは愚問かもしれませんが」
 博士は答えようと、何か声を出そうとしたとき、先に解答を言われてしまった。
 解答というよりも、なぜそんな質問をこの男はするのだろうかと、そちらの方が気になったからだ。
「まだ、事件の内容を聞いていませんが」
「ああ、そうでしたね。しかし、この事件は滅多に言えない内容でして、あちら側の世界の存在を肯定される人でないと、お話できないのです」
「あちら側とは」
「心霊世界です」
「ああ、そう」
「博士は心霊現象を認めておられると、私は推測し……」
「それは犯罪なのですか?」
「はい、立派な犯罪です」
「犯罪に立派はないと思いますが」
「いえいえ、ただの怪談話ではなく、れっきとした刑事事件だと言いたかったのです」
「私は刑事でも探偵でもありません。それに犯罪に関しての知識もありません。私が取り扱っているのは心霊現象です。あくまでも現象で、事件性は薄いのですが……。それに、不思議なことが全て心霊現象ではないでしょう」
「幽霊が殺人を行う。あり得ないでしょ?」
「それは、本当に幽霊なのですか?」
「そうとしか、思えません」
「それは、何かのトリックではないのですか」
「違います」
「どんな事件なのかわからないので、正確にはお答えできませんが、幽霊は殺人行為はできません。幽霊に殺されることもあり得ません。たとえ幽霊が存在していたとしても、人を殺すことはできません。殺人とは、人を殺めることでしょ。具体的な何かで」
 博士の態度で、依頼者は、相談相手を間違えたと思った。
「わかりました」
「話に乗れなくて、申し訳ありません」
「いえいえ」
 こういう乗りの悪い話も、世の中には多くあるものだ。

   了

 


2009年11月16日

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