小説 川崎サイト

 

黒姫山の魔女

川崎ゆきお



 市街地からそれほど遠くない山に魔女がいる噂があった。
 それを聞きつけた物好きが魔女を捜しにその山に入った。
 国有林が広がる山地だ。深い山ではなく、二時間に一度は通るバスで行ける。
 探検家は近くの村でその山を教えてもらった。山の名は黒姫山だ。
 特に目立った山ではないが、ピラミッドのように尖っている。特に高い山ではない。
 もう誰も通らないのではないかと思えるような林道は獣道のようになっている。
 黒姫山らしい頂が見えたが、もう上に登る人工的な道はなくなっていた。
 登り口を見つけようと、麓をうろついていると黒っぽい人影と出会う。おそらくそれが黒姫山の魔女だろう。意外と浅いところにいた。
 その後ろに人工物が見える。小屋のようだ。林業者の物置かもしれない。かなり朽ちている。
 探検家が近づくと、魔女は表情を変えないで別の場所を見ている。目を合わせたくないのだろう。
 顔の皺から年輩の魔女だとわかる。
 冒険家が魔女に話しかけると、魔女は抑揚のない声で質問に答えてくれた。
 結局魔女ではなく、ホームレスだとわかったので、冒険家はがっかりした。
「どうしてこの山に住むようになったのですか」と聞いてみた。
 ホームレスは、この地方の出身で、ここが黒姫山であることを知っていた。
 魔女が先ではなく、黒姫山が先だ。
 魔女が住んでいるから黒姫山と誰かが付けた名ではない。
「あなたのことを黒姫山の魔女だと噂していますよ」というと、ホームレスはニヤリと笑った。
 そして、小屋から平らな箱を持ってきた。
 蓋を開けると小さな石が宝石のように並んでいる。
 どうやら魔法石らしい。
 冒険家は話の種にと、好みの形の石を買った。その辺に落ちている小石だ。
 魔法について、いろいろ質問をしたが、この魔女は何も知らないようだった。
 町に帰った冒険家はふつうの勤め人に戻り、その話を好きそうな知り合いに話した。
 黒姫山が繁盛したかどうかは、その後わからない。

   了

 


2009年11月21日

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