骸骨男
川崎ゆきお
郊外にある大きなショッピングモール内での話だ。
「おや、あなたも」
奥まった場所にある喫茶店で年輩の男たちが話している。
店には仕切りがなく、婦人用のテナントが集まっている場所だ。
「しつこく追い回されましたよ。別に走ったわけでも、早足にもなってませんがね。そんな真似すると逆に怪しまれますよ」
話しているこの男は、ジャージ姿だがそれほどひどい服装ではない。そのジャージもよく見ればブランド品だ。
「彫りが深くて、ぎょろっとした目玉なのに奥目の顔の警備員でしょ」
「そうそう、そのスケルトンだ」
「スケルトン?」
「骸骨男だよ」
「ああ、なるほど」
「試しにねえ、いろんな売場を無理とに移動したんですよ。するとね、ついてくるんですよ。こりゃ明らかに、私をマークしてるんだよ」
「でも、それじゃ尾行にならないでしょ」
「じゃ、何だよ」
「嫌がらせかな」
「なんで、そんなこと」
この喫茶店に集って雑談する男たちより、一世代ほど上の警備員だ。だから、もうお爺さんといってもいい。
「あの警備員は巡回しているだけだろ。だから、きっと退屈なんだ」
「それにしても、露骨だよ。落ち着いて買い物もできない」
「喫茶店に来るだけじゃないか」
男たちは、この近所にすむ住民だ。定年退職後、暇を持て余している。
「僕は本屋へ寄りますよ。買い物はしてますよ」
「尾行はあった?」
「ありましたよ。本屋まで入ってきましたよ。僕は悪い身なりじゃないです。犯罪者に見えますか」
「いや、服装と犯罪は関係ないよ」
「万引きなんてしませんよ」
「モールの人に言った方がいいんじゃない」
「警備会社からきてるんだと思いますよ」
「まあ、迷惑だからね。不審警備員だ」
ショッピングモールの事務所へそのことを伝えた。
しかし……
「そんな人、雇っていないんだって」
「じゃ、ボランティア」
「そういえば、あの骸骨男だけ制服がちょっと違ってたなあ」
その後も、骸骨警備員は出るようだ。了
2009年12月1日