小説 川崎サイト

 

狐行灯

川崎ゆきお



「電気代がもったいない」
 それが最終的な感想だった。
 郊外に大きな家電店がある。田圃の中だ。周囲は住宅がぼつぼつ立ち始めている。田舎だが幹線道路沿いなので、そこそこ客が見込めた。
 駄目なら閉めればいい。そのため三建ての建物はプレハブのようにお粗末だ。いつでも畳める。
 その話を伝えたのは近所の老人だ。地元の人だ。
 夜中に煌々と明かりがついているという。店内の改装でもしているのか、飾り付けを夜間にやっているのだろうと思っていたのだが、最近毎晩のように明るいという。
 その話が店長にも伝わったのだ。
 店員は老人の話をすべて店長に伝えたわけではない。
 狐行灯の話はカットしていた。
 店長は夜更けまで店で仕事をし、その後、残って様子を見ようと考えた。
 各フロアの担当が電気を消した後なので、明かりがあるのは三階の事務室だけになった。
 それでも店内はうっすらと明るい。緑色に輝く非常口の明かりは残っている。
 事務室の電気を消し、階段で下まで降り、そして、駐車場の車に乗った。
 車内から店はよく見える。そこで見張ることにした。
 深夜の一時過ぎになるとパッと店が明るく輝いた。
 誰もいないはずだ。誰かが隠れていたのだろうか。しかし、各フロアの照明を同時につけることはできない。だから、複数の人間でないと同時点灯は不可能だ。
 店長は通用口から入り、一階のスイッチを見る。
 スイッチは「切り」になっている。店長は「入り」を押した。すると一回の蛍光灯の三分の一が消えた。スイッチは三カ所ある。
 どのスイッチも「切り」になっていた。
「電気代がもったいない」は、そのとき店長がつぶやいた言葉だ。
 翌日、部下にスイッチか配線の故障を直すように命じた。
 店員は狐行灯の話を伝えようとしたが、言えなかった。
 昔、つけた覚えのない行灯が夜中煌々とつくという怪しい話だ。
「蝋燭がもったいない」と、昔の人も言ったのかもしれない。

   了
 


2009年12月3日

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