小説 川崎サイト

 

鉛筆が話す

川崎ゆきお



「鉛筆が話したら面白いですねえ」
「面白いですか?」
「鉛筆が話すのですよ。会話するのですよ。面白いじゃないですか」
「本当に面白いと思って言ってるのかね」
「単純に考えても面白いじゃないですか」
「単純というと、それほど本当に思っていないと言うことだね。じゃ、消しゴムでもいいんじゃないか」
「鉛筆ですよ。鉛筆」
「歯ブラシでもいいんじゃないのかね」
「いや、鉛筆ですよ」
「じゃ、鉛筆が話せばどうして面白いんだ。消しゴムや歯ブラシでは出せない面白さがあるはずだ」
「イメージですよ。イメージ」
「だから、どう面白いのかね」
「面白さに理由はないですよ。面白く感じるだけですよ」
「言ってみただけじゃないのかね」
「違いますよ」
「君には特別な感性があり、その感性が言わせていると言いたいのじゃないのか」
「違いますよ」
「じゃ、鉛筆が話しだして、どんな展開になるんだ。そして、なにを話すのかね」
「そりゃ、いろいろですよ」
「ないんだね」
「だから、イメージですよ」
「たとえば、何かを鉛筆で書こうとすると、鉛筆が喋り出す。その言葉を鉛筆で書く。つまり、自動書記のことだ」
「はい、それもアリです」
「他には?」
「喋っている状態が面白いのですよ」
「君は適当に言ってる。そういうことを言うと、才能のある人間と思われる。それが狙いだ。本当は面白くないんだよ。それは君がよく知っている。面白がろうとしているのはわかるがね。他人にはない感性があると言いたいだけなんだ」
「違いますよ」
「まあ、いいから、次は、どう面白いのかを鉛筆じゃなく、君が語るべきだ」
「説明なんていりませんよ。面白さに」
「君にしかわからない面白さも確かにあるだろう。だが、君が面白がっていることを確認することは不可能だ。嘘でもかまわないのだから」
「はいはい、わかりましたよ。硬い鉛筆だ」

   了


2009年12月13日

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