小説 川崎サイト

 

ある新年

川崎ゆきお




 年が明けた。
 富田は一つ年をとっただけの新年だった。
 テレビで、旧友のミュージシャンが難しい話を喋っている。自分の音楽についての話で、音楽と如何に向き合うのかを、過去を振り返りながら話している。
 正月番組ではなく、再放送のようだ。
 しかし、わざわざ元旦に、音楽のマニアックな番組を再放送するのも妙だ。
 富田は別のチャンネルに切り替えた。
「確かに正月だ」
 富田は今日は元旦だと思いこんでいるだけで、世間では別の日なのではないかと、あらぬことを考えたのだ。
 その旧友のミュージシャンは、子供たちを前に話している。そういう番組なのだろう。別に元旦にやってもいいのだろう。もう深夜なのだから。
 旧友の話は難しい。子供にわかるのだろうか。
 自分の生きざまがリズムになる……。
 そう語っている。
 そして、長く音楽をやるには自分の型を持たないといけない。だが、それは年をとるに従い変わる。そうなると型が型ではなくなる。型が変わることは、型ではなくなることだ。と、話は子供向けではない。
 旧友の悩みはそこにあり、それをどう自身が受け止めながら歌い続けるかが問題だと語る。
 富田は旧友の型は昔も今も変わっていないと思う。まだ、ミュージシャンになる前から、理屈っぽい。昔と同じなのだ。
 旧友は新しい型、新しいリズムを模索中だと子供たちに語る。
 そしてそれをテレビで見ている富田は今年は食べていけるのだろうかと考える。
 富田の悩み事はギャラにならない。

   了

 


2010年1月4日

小説 川崎サイト