小説 川崎サイト

 

棘のある話

川崎ゆきお




 朝倉は自炊しているが、週に一度ぐらいはコンビニで弁当を買うことがある。
 体調がよくないときや、食事を作るのが面倒なときがある。そのほか、忙しくて作れない日もある。それでもほぼ毎日作っているようなもので、それなりに頑張っている。
 だから、週に一度弁当にする程度なら上出来だ。
 その日は昼間から作る気力がなかった。ご飯の残りがなく、しかもおかずの具もなかった。しなびた白菜と卵が残っている程度だ。さらに、それで昨夜、二回も同じおかずで食事した。
 こういう日はたまにあるが、二週間に一度ぐらいだ。昨夜から作る気が失せているのだろう。食材のストックもない。
 たまにこういう日があるのは想定内で、そういうことにならないようにつとめても、どうしても起こってしまう。といっても事件でも事故でもない
 当然その昼、無条件でコンビニへ行った。無条件降伏は月に何度かあってもかまわないのだ。
 そして、買うのだから、自分では作りにくい幕の内弁当にした。これだけの食材を集めることは可能だが、無駄が出る。たとえばこんにゃくを入れるにしても、一切れだ。まともにこんにゃくを買うと余る。
 幕の内弁当こそが、弁当の中の弁当で、買うに値する意味が大きい。
 それで迷わず幕の内弁当を温めてもらい、部屋に持ち帰った。
 割り箸を取り出そうとしたとき、きついものが指にきた。箸袋の中に入っていた爪楊枝が刺さったのだ。
「逆だ」
 つまり、いつもなら手前側、太い方を上にして、握りながら、ズルッと下へおろすことで包装が破れ、割り箸が出てくる。その方角だと爪楊枝の頭は上を向いている。
 方角を誤ったのだ。
 週に一度の弁当で、年に二回ほどの確率で爪楊枝が突き刺さる。
 それを何度も学習しているからこそ、太い方を上にしてズルッとむくことを覚えたのだが、ついつい間違ってしまうのだ。
 たかが爪楊枝の先だ。大怪我にはならない。また、突き刺さる手前で止めるので、チクッとする程度だ。
 自炊で煮物鍋を焦がし、気づかないうちに引火し、火事になることに比べれば、爪楊枝の先が指に刺さるなど、大したことではない。
 しかし、朝倉は憎くてならない。
「またやられたか」
 箸袋の闇の中に凶器の棘が潜んでおり、そいつにまたやられたのだ。

   了

 

 


2010年1月22日

小説 川崎サイト