小説 川崎サイト

 

不思議な昼時

川崎ゆきお




 自炊の山岡だがたまに外食する。
「今日は外食しよう」と計画的に実行するわけではない。
 それは偶然に決まる。
 おかずがない。米が切れていた。などが偶然の中身だ。それらが重なることが大事だが、まだ一押し足りない。それは、外食したいという気分の強度が必要になる。
 この強度は食べたいものがひらめかないとだめだ。
 その昼、山岡は外食への偶然が重なり、しかも天ぷらうどんが食べたいというイメージも加わり、十分な強度に達していた。
 心配なのは大きな海老が二匹も入り、さらに野菜の天ぷらまでのっている天ぷらうどんを出す店が、昼時は満席だということだ。
 時計を見ると十二時を少し過ぎている。完全に出遅れだ。
 十二時前後に入った客の第一陣が引く時間を期待する他ない。
 相席でもかまわない。それより椅子があるかどうかが心配だ。
 山岡が大衆食堂の前に到着したのは十二時半だった。
 そして暖簾をめくり、ガラスのドアを開ける前に、異常に気づいた。ドアを閉めようかと思ったほどだ。
 しかし、暖簾は掛かっている。営業中のはずだ。そう思い直し、店内に入った。
 客は誰もいない。
 昼時はパートのおばさんが二人いる。奥で立っていた。
 そして、水を持ってきた。
「どうかしたの?」
「いえ、別に」
「すいてるねえ」
「そうですねえ」
 その声を店主が聞いたのか、説明し始めた。
「不思議なんだけで、年に一度ほど、こんな日があるんだよ。何かの巡り合わせなんだろうかねえ」
「じゃ、偶然客がこないと」
「ああ、年に一度は、あるんだ」
「でも、僕がきたから、今日は年に一度にはならないでしょ」
 高岡は天ぷらうどんを注文した。
「材料が余るよ」
 店主がそういいながら天ぷらを揚げ始めた。

   了

 


2010年2月3日

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