小説 川崎サイト

 

地味武者

川崎ゆきお




 地味に、真面目にこつこつとモンスターを倒している武者がいる。
 もうその武者にとり、敵ではない。しかし彼は綿々粛々と倒し続けている。
 そこを通りがかった若武者が話しかける。
「そんな地味なことをしなくても、クエストを果たせば経験値が増え、強くなるよ」
「ああ、それはわかってる」
「ははああん。倒せないんだろ。この先のクエストモンスターを」
「いや、まだ、そのクエストを受けていない」
「じゃ、あんたは雑魚キャラだけを倒して経験値を得るつもりかい。そんなことしてたら時間がかかるじゃないか」
「ああ、そうなんだ。それでこんな年になってしまった」
「じゃ、すぐにクエストを受けてくればいいじゃないか。あんたの腕なら、倒せるモンスターだぜ」
「それを倒して何となる」
「決まってるじゃないか。経験値が増え、レベルが上がる。すると、より強くなり、戦いが楽になる」
「今も十分楽だよ」
「それは、この辺のモンスターは弱いからだよ」
「じゃ、あんたの目的は何だ」
「こうしてモンスターを潰すのが好きなんだ。だから、どんな相手でもかまわない」
「しかしだよ。そんな弱い相手ばかり倒していても自慢にならないよ。武者ならせめて互角の相手と戦わないとね。もっといえば、上位の敵と渡り合うべきだ」
「まあ、そうなんだがね。それをやるときりがないだろ。さらに強いモンスターが次々に現れる」
「そうだよ。そしてまた強くなるんだ」
「その果ては何だろう」
「その果て?」
「最高に強くなったときだよ」
「最高の武者になったということだ」
「じゃ、その上はないのだろ」
「最高だからね」
「じゃ、それが果てだ。そこで終わってしまう」
「それが目的を果たしたということじゃないか」
「まあ、そうなんだけど、やることがなくなるじゃないか」
「まあ、それで引退だけどね。もうクエストもない」
「いや、私は終わりたくない。それだけだ」
「勝手にしろ」
 若武者は去っていった。
 もういい年をした武者は、モンスター狩りを続けた。

   了

 


2010年2月4日

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