小説 川崎サイト

 

天井裏の死体

川崎ゆきお




「天井裏に死体を隠した夢を見たんだよ」
「隠しているところの夢ですか?」
「いや、隠したことを忘れていてね、天井裏に死体がある夢を見て気づいたんだ」
「それはすべて夢ですね」
「そうだ。天井裏に死体を隠した覚えはない。だいいち隠せないだろ。どうして引き上げるんだ。それに、死体は誰なんだ。私は殺人者ではない」
「今まで天井裏に物を隠したことはありますか」
「ある」
「それが死体と入れ替わったのでしょうね」
「しかし、天井裏に隠した物は、もうない。子供の頃だ」
「じゃ、今は天井裏には何もないのですね」
「ない。ないがたまに気になる」
「もう、隠し物はないのにですか」
「ああ、何かまだ隠していたような。隠したことを忘れているような」
「その後、隠した記憶はありますか」
「ない」
「天井裏を覗いたことは?」
「あるね。猫が入り込んだのか、天井裏にいるようなので」
「そのとき天井裏に何かありましたか?」
「何もない。昔隠した場所には何もない。天井板は一枚だけ開くんだ。頭だけは出せる。そこから手が届くところに隠した」
「天井裏は頭の裏側かもしれませんね」
「普段、アクセスしない箇所かね」
「そうです。いつもは使わない場所です」
「頭の中にそんな部屋があるのかね」
「ありません」
「それで、天井裏に死体を隠していることを思い出す夢はどうして見るんだ」
「そうですね。死体なら、天井裏ではなく、床下でしょうから。ここで上下がひっくり返っていることが大事なんです」
「ほう」
「後は、ご自身で考えてください」
「うむ」

   了

 


2010年2月15日

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