小説 川崎サイト

 

夢の散歩

川崎ゆきお




 三村は起きるといつものように散歩に出るため玄関を開けた。
 すると風景が違っている。だが、間違ってはいない。そのためか、最初はその変化がわからなかった。これだけ明確に変化しているのに。
 玄関前の道が地道になっている。舗装されていないのだ。さらに電柱はコンクリートではなく木だ。向かいの家も変化しており、ブロック塀が生け垣で、ビワの木が延びている。
 実にはっきりとした変化だ。一瞬で変化がわかるはずだ。
 三村は玄関を開けると、風景が一変していることは考えたことはない。雪でも積もって真っ白になっているのなら別だが。
 だから、変化など起こっていないと思ったのではなく、何も思わなかったのだ。
 ただその変化は、見慣れた風景だった。最近の風景よりも、ずっと馴染みのある自然な風景だった。
 三村は長くその風景を見ながら育った。舗装されていない家の前の道。生け垣の向こう側にあるビワの木。
 だが、さすがの三村も数秒後には、その変化に気づいた。
 寝起きなので、寝ぼけているのかもしれないし、また、まだ布団の中にいるのかもしれない。
 なになのかもしれないの、この「しれない」を三村は連発させるが、徐々にその余地がないことに気づく。
 三村は数歩歩く。
 子供の頃の風景がどうやら切れ目なく続いているようだ。
 和服にエプロンのおばさんが歩いてくる。風景だけではなく人物も変化している。
 三村は自分の家を見る。
 アルミサッシにした玄関が消え、格子が沢山入ったガラス戸になっている。もう契約していないはずの牛乳箱もある。
 もしこれが夢ではなく、ワープならすごいだろうなと思いながら、三村は夢がさめるまで、その世界を散歩した。

   了


2010年2月16日

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