小説 川崎サイト

 

踊り場

川崎ゆきお




 学校の怪談があると聞き、下村は深夜の小学校校舎に入った。
 案内するのは宿直員だ。
 案内された場所は階段だった。
 階段の踊り場で、一階から二階へ上がるときの繋ぎ場だ。これで、傾斜が弱まるのはわかる。
 宿直員は踊り場で立ち止まり、ここだと言った。
 確かにそれは学校の階段だ。
 まさか、それだけのことではないだろう。
 宿直員はただの警備員のようなもので、教育関係者ではない。泊まりがけで朝まで詰めている。学校に来るのは夕方からで職員が帰ってからが彼の仕事になる。
 その彼が、怪談があると下村に連絡してきた。実は二人ともこの小学校の同級生だ。
 確かにそこには階段がある。
 そんな駄洒落を言うような男ではない。
「どんな怪談なんだ」
 電話で説明は受けていなかった。現場で話すと。
 その現場が、この階段なのだ。
「階段の怪談だ」
「どういうこと?」
「この踊り場から上へ行くと四年一組の教室前に出る」
「それが怪談なのか?」
「いや、実は五年一組の教室前に出るはずなんだ」
「え、どういうこと」
「巡回していると、たまにあるんだ」
「ワープ?」
「うん、調べてくれないか」
「それって、昼間は、そうならないんだろ。もしそうなら、生徒が先に気づくだろ。それに僕らも、この校舎で六年間いたんだから」
「そう、夜だけ。しかも、週に一度ぐらいかな。最初は気づかなかった。この校舎、三カ所階段がある。君も知ってるだろ。ここは南階段だ。ワープ先は中階段をあがったところになる」
「君が階段を間違えて、南階段だと思っているだけで、実は中階段で……」
「それはない。順路はチェックしている」
「他の宿直員は?」
「そんな体験はないようだ」
「じゃ?」
「僕の錯覚なのかもしれないけど、調べてほしいんだ」
「調べるって?」
「今から上へ行く。ここは南階段だ。だから五年一組の前に出る。一緒に確認してほしい」
 二人は踊り場から上へと向かった。
 そして、教室を見ると五年一組で、ワープしていない。
 廊下が奥へ延びている。そこに懐中電灯らしき明かりが動いている。中階段あたりだ。
「あれ、僕なんだよな」
 宿直員は小さな声でつぶやいた。

   了



2010年2月22日

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