小説 川崎サイト

 

トイレと便所

川崎ゆきお




 平田は夜中に一度トイレに立つ。これは夜中の行事のようなものだ。
 特に病気ではなく、気にしていない。
 その夜も三時頃だった。いつもと同じ時間なので、確認していない。
 用を足している最中、声が聞こえる。
 複数の子供が騒いでいるような音だ。
 音を声と判定するのはまだ早い。
 平田は夜中に祭り囃子しを聞いたことがある。笛や太鼓の音が聞こえた。しかし、いずれも低音で音の幅が狭い。かなり遠くでやっているのだろう。
 しかし、これは雨音だった。屋根瓦やとたんの庇や樋からのミックス音だった。そのため、雨が一定の強さに達すると祭り囃子は今でも聞こえる。
 祭り囃子は音だ。しかし演奏であり、意味のある音なので、曲だろう。
 そして、トイレで聞こえてくる子供の歓声は声なのか、音なのかと平田は考えた。
 子供が夜中に遊んでいるわけはない。また昼間でも平田の家の近くで、複数の子供が遊ぶ姿は最近見ない。
「やった」
「よし、ラッキー」
 そういう声が聞こえる。これは音ではなく声だ。
 平田はトイレの窓を少し開ける。
 窓の下は隣の家のガレージになっている。
 しかし、車がないどころか、そこに子供らが団子状態で遊んでいるのだ。
 しかし、見た感じは子供であり、そういう服装だが、顔は大人だ。だから、大人が大きな子供服を着ているのだ。
 百キロを超えるような大人もおり、半ズボン姿だ。子供服が拡大されたと見るべきだろう。
 背景に目をやると真っ暗だ。いつもならマンションの明かりが見える。その明かりが消えているのではなく、マンションそのものがない。星が水平線ぎりぎりのところで光っている。
 平田はトイレの窓枠を見た。開けるとき触ったはずだ。アルミサッシが木枠のスリガラスに変わっている。
 トイレのドアを見た。
 ドアが板戸に変わっていた。
 トイレが便所に戻っていた。

   了

 


2010年2月24日

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