小説 川崎サイト

 

部長補佐

川崎ゆきお




 部長補佐がまた辞めた。虐められたのだ。
 人事部は地方支社からある人材を部長補佐として入れた。
 ある人材とは、虐められなれている人で、その名を高橋としておく。地方からなので、栄転だ。しかし、誰も居着かないポジションだ。そのため、地獄部屋へ送られたようなものだ。
 その地獄部屋の部長を変えることはできない。社の縁者なので。
 高橋は虐められていると評判の男だけに、しばらくは持つだろうとの計算だ。
 半年持てばいい。
 部長は恰幅のいい大男で、大きな顔で広い肩幅。そして強烈なだみ声。猿山のボスそのものだ。
 部長は新任の高橋を見て、歯ごたえのない男だと楽観した。いや、落胆したのだろう。こういう男は何も言わなくても三日ほどで辞めてしまうだろうと。
 高橋は貧弱な体格で、顔もマッチ棒の先のような小さな丸顔だ。よく見るとやや細長い。細長い顎が出ており、ここにパンチをもらうと一撃でダウンだろう。しかし、鼻は少し大きい。他が小作りなので、そう見えるのだろう。
 部長補佐は部長を補佐する食だが、この補佐が部長を超えて取り仕切っていることもある。力のある補佐なら、部長の代わりに実務をとる。
 しかし、高橋はそんな力はないようで、ただ我慢強いだけのようだ。
 打たれ強くないのは顎を見れば分かる。だからデフェンスが巧みなのだ。打たせないのだ。
 マッチ棒の高橋は全身が芯だ。パンチをもらえば全て心に届いてしまう。だが、しなやかなマッチの軸が、うまく弛みパンチを級数させているのかもしれない。これが針金ならダメージが真芯に響き渡るはずだ。
 初日この二人は外の出ており、仕事後、サウナへ行った。
 部長はサウナ好きで、いわばプライベートな時間なのだが、高橋もつきあわされた。
 逆転したのは、その時だった。
 翌日、部長の態度は一変していた。
 何が効いたのか、人事部も担当も分からない。
「サウナねえ」
「高橋さん、入れ墨でも……」
「それはない」
「じゃ、何でしょうね。あの大ボス部長が縮み込む原因は」
 高橋を小学生時代から知る友人の話によると、そういうことは希にあるという。
 並みの大きさではないらしい。
 
   了
   

 


2010年3月5日

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