枯れ花見
川崎ゆきお
「妙なものを見たよ」
「ほう」
「花見なんだがね」
「桜の？」
「そう」
「妙じゃないと思うけど」
「まだ花見じゃないだろ」
「そうだね。桜はまだ咲いていない。まだ寒いよ。もっと先だ」
「しかし、花見をやっていたんだ」
「咲いていないのに」
「ああ」
「どこで？」
「土手の横」
「寂しい場所じゃないか。花見シーズン以外は誰も来ない公園だろ」
「しかも深夜だ」
「夜桜か。いや、それは咲いていた場合だろ。それにあそこは暗いよ」
「花見のメンバーは全員老人で、十人ほどで、固まっていた。最初人だとは思わなかった。植え込みかと。でもよく見ると、微妙に動いているんだ。風で植え込みの葉が揺れているのかと思ったが、そうじゃない」
「それは、なんだ」」
「花見なんだが、花見じゃない。別のものだと思う」
「そのお年寄りたちに見覚えは？」
「ない」
「幻覚だろうね」
「僕の？」
「そうだ」
「やはり植え込みだったのかもしれない」
「服装は？」
「着物だ」
「いつの時代だろう」
「髷はなかったように思うけど、よく覚えていない」
「花見だから、ござを敷いたり、酒盛りの食器のようなものがあるはずだよ」
「あったように思う。ござも敷いてあった。みんな正座していた」
「じゃ、植え込みではない」
「うん」
「幻覚だろうね。やはり君の」
「まだ咲いていない桜の木の下を通ったことは事実だ。だから」
「だから」
「自分のイメージを重ね合わせたのかもしれない」
「花見だけに重箱もあったと言うことか」
「信じてくれないんだな」
「当たり前だろ」
「そうだね。でも一応見たから報告しておくよ」
「ああ勝手にしなさい」
了
2010年3月16日