藁人形の里
川崎ゆきお
藁人形の里は、山間にある小さな村落が集まった場所を指す。藁が原村が正式な名称だ。しかし原と言うほどの広さはない。この原は野原の原に近い意味があるようだ。
藁人形の里と言われるようになったのは最近のことで、一種の村おこしだ。地域活性の切り札として藁人形を起ち上げたのだ。
昔から農家の副業として藁人形を作っていた。藁細工だが、特別な意味を持つ人形だ。つまり「ヒトガタ」なのだ。
要するに呪術アイテムの生産地だった。
村の歴史は古い。都との関係が深く、陰陽師家の領地でもあった。
そして、今はおびただしい数の等身大の藁人形が村の至る所に飾られたり吊されたり、立っていたりする。藁人形密度が日本一濃い場所だ。
村おこしは失敗し、おびただしい数の藁人形だけが残った。
今、藁人形の里、つまり藁が原村は廃村となっている。もう誰も住んでいないのだ。藁人形以外は。
そして、最近のことだが、この藁人形が、どうも動くらしいとの噂が広がった。誰かが冗談で言い出したものと思われるが、こういう情報は意外と怪奇趣味者を引き寄せるようだ。
平日でも訪れる人が多くなっている。
藁人形が自分の意志で動くわけではないが、つらされている人形は風で動くし、崩れたりする。立てかけていた藁人形が違う方向を向いていたりもする。
それよりも、廃屋と藁人形の組み合わせが不気味だ。
ある家の軒先には十体以上の藁人形が並んでいる。これをカメラで写した人がブログで紹介するものだから、結構有名になり、プロの写真家まで現れる始末だ。等身大の藁人形はモチーフとして面白いのだろう。
結局村おこしに失敗した後、藁人形の里は賑わってしまった。
地域の人たちが、藁にでもすがる思いで作った藁人形の念が今頃伝わったのかもしれない。
了
2010年3月21日