小説 川崎サイト

 

森の中の洋館

川崎ゆきお




 鬱蒼とした森で、昼でも暗いような場所で、道らしき道はない。
 迷い込んでしまったのだ。
 うろうろしていると、開けた場所に出る。そこだけは木は生えていない。そのかわり、洋館が建っている。二階建ての三角屋根なので、屋根裏部屋でもありそうだ。
 そこに悪魔が住んでいる。
「と、言う話なんだけど、該当する場所を探しましたよ」
 溝口は洋館の発見者の話から、場所を特定した。
「よく探しましたねえ」
 中田町は都心近くの住宅地で、自然が豊かな場所ではない。山も近くにはない。
「鬱蒼とした森でしょ。これが難しかったです。確かに緑はそれなりにありますよ。でも鬱蒼とした森となると、すぐに分かるはずです。また、中田町にそんな森は存在しません」
「でも、緑の多い町でしょ」
「広さではなく、密度だと思いましてね。それで探索したのですが、まだ田畑が残っている場所で見つかりましたよ。濃い緑の固まりをね」
「何処です。公園ですか」
「いや、植物園です。造園用の樹木を育てている」
「ああ、木の畑のようなものですな」
「どうも、その園芸業者が建てた洋館のようでしてね。木の畑は放置状態で、伸び放題。もう営業していないようです」
「それで、悪魔の正体は」
「いや、悪魔までは調べていませんがね。探せばあるものですよ。こんな町中でも」
「植物園があるんだから、そんな町中じゃないわけでしょ」
「そうですねえ。森の中に迷い込み、いきなり前方に開けた場所があり、そこに洋館が建っていた、という感じじゃありませんが」
「その情報は何処から?」
「依頼者の息子さんの日記です。森の中の洋館で悪魔を見たと」
「まだ、小さい息子さんですね」
「小さい頃見たのでしょう。悪魔でも出そうなので、そう記したものと思われます」
「依頼者は、親御さんですか?」
「はい、息子さんから聞いたようです。場所までは話してくれなかったようです」
「その息子さん、今何歳です?」
「二十半ばです。引き籠もってましてね。森の中の洋館に住みたいと言ってます。そんな場所はないというと、日記を出してきたようなんです」
「それで、どうなりました」
「今、そこに住んでますよ」
「ほう」
「廃業した園芸業者の持ち物ですがね。借りたようです」
「じゃ、今もその息子さんはそこに引き籠もっているのですね」
「悪魔のようにね」
 
   了


 


2010年3月25日

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