友達のいない二人
川崎ゆきお
木下は四十半ばで友達は一人もいない。会社でも孤立している。つきあいをしなくなると、もう誘ってくれない。木下にとり、それは都合のよいポジションを得たことになるからだ。どうせ、お金を得るために働いているのだから、余計なところでエネルギーを使いたくない。
休みの日はお金を使わないように、自転車で町内をぶらぶら走っている。かなり長距離移動する。この間も自分だけの世界だ。
友達関係に意識的になったのは、旧友が住んでいた家の前を通ったときだ。
立花という。
学生時代からの友達で、数年前までは交流していた。
それが途切れたのは、木下に問題があったわけでも、相手の立花にもない。徐々に住む世界が違ってきたため、学友のような共通する場を失ったからだ。それでも長くつきあっていたのだから、よく持った方だ。
その立花だが、こちらも友達はいない。理由は木下とそっくりだ。
この二人が最後に会話したのは数年前で、このときも久しぶりだった。
木下は話していて疲れてきた。いつも同じ話になり、それに飽きてきているのだ。そして、意見の違いはいつまでも続き、どちらも変化しない。また影響もされない状態になっている。年を食ってくると考え方も固まるためだ。学生時代ほどには会話による変化は望めない。
不毛なわけではないが、一方的に自分のコメントを発しているだけの会話だ。
それで、疲れてしまい、話しても面白くない状態になった。
実はこれはお互い様だった。立花も疲労し、それがピークに達したのか、それ以降二度と会っていない。
むしろ、帰ってから、一人でごそごそしているほうが楽しく、落ち着き、そして何となく充実していた。
そんなことを回想しながら、木下が自転車で走っていると、向こうから、その立花が現れた。同じように自転車に乗っている。しかも同じタイプの自転車で、さらに近づくと、そっくり同じものだった。
立花もそれに気づいたのか、すれ違うとき、「あっ」とだけ声を発した。
木下も、それに同調するかのように「あっ」と発した。
二人は、まだどこかで繋がっている友達なのだ。
了
2010年4月6日