小説 川崎サイト



不審者リスト

川崎ゆきお



 黒岡の名前が不審者リストに載っている、と幼友達の富田が電話で知らせてくれた。
「どういうことなんだ」
「町内を見回っている人達がいるだろ」
「最近よく見かけるなあ」
「その連中が作ったリストなんだ」
「僕の名前が載ってるのか」
「俺もだよ」
「かなり調べてあるよ。プリントしたから見せてやろうか?」
「お願いする」
 二人は町内の喫茶店で会った。
「こんなことでもなけりゃ、めったに会わないなあ」
 富岡はリストを見せた。
 住所や年齢、それに職業や家族構成まで書かれている。
「よく調べてあるなあ」
 二人ともニートで、昼間からぶらぶらしている。
「これって、ファイル共有ソフトとかで流出したの?」
「ウィルスに感染して、アップされたとしても見つかんないよ。パトロール隊のホームページにあった」
「公開してるのか?」
「隠しページだよ。メニューから飛べないだけで、検索で簡単にたどれるよ」
「じゃあ、流出じゃないんだ」
「だけど、その気になりゃ、誰でも見られるよ」
 黒岡はリストを眺めた。知っている名前もある。
「ひどいなあ、不審者扱いとは」
「パトロール隊って自治会がやってるんだろ。今、会長は誰かな?」
「自治会とは別の組織だよ。小さい子供のいる親が集まって作っている」
「僕らは生まれたときから、ここにいるんだよ。不審がられるのはおかしいよ」
「あの親たちから見れば、怪しんだよ。町内の危険人物をマークするのも悪くはない」
「過剰防衛だね」
「大人を見れば不審者だと思えって小学校の校長が話しているんだからさ」
「じゃあ、校長も大人なんだから、不審者だよな」
「ああ、保護者の親たちも不審者なんだ。そのレベルで言えば、俺達は要注意人物になる」
「そのうち、子供も不審者に入るね」
「だから、こんなリスト無視していいんだよ。全員が不審者なんだからさ」
 
   了
 




          2006年6月8日
 

 

 

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