小説 川崎サイト

 

大福眠い

川崎ゆきお




 坂田は自宅でネット関係の仕事をしている。仕事内容には問題はないが、自宅が問題だ。
 急ぎの仕事を上げないといけない。あと一息だ。決して時間的に不可能なスケジュールではない。無理な話ではない。だから、ここでの問題はない。
 だが、腹が減り、何か食べないと落ち着かない。坂田はやせているので、カロリーを常に補給しないといけない。
 空腹時、頭の回転は問題はない。より集中力が出る方だが、身体が動かない。
 エネルギー切れなのだ。
 そして、先ほどから机の上にある大福餅を見ている。
 この大福餅には問題がある。賞味期限が切れているのだ。数時間前のことだ。だから、別に食べても腹が痛くなるようなことはない。これが二日前だと、少し問題だが。
 さらに問題は、坂田と大福餅との関係だ。平常なら問題はない。
 また、大福餅に特化した問題ではない。甘い和菓子に問題がある。
 この問題は子供の頃から引き受けている。実に熟れた問題で、解決方法ははっきりしている。食べないことだ。
 坂田にとり、大福餅は食べてはいけない存在ではない。食べていいのだ。
 だが、問題の核心は坂田の独自性と関係する。それは、非常に個性的で、普遍性のない話なのだが、実は甘い和菓子を食べると眠くなるのだ。
 特に大福餅はいけない。睡眠作用が一番強い。桜餅はその半分ほどだ。
 しかし、桜餅より坂田は大福餅が好きだ。
 それで、スーパーでの選択でも、大福餅を優先させた。もし、大福餅がなかったなら、桜餅にしただろう。それは坂田にとっては残念な選択にはなるのだが。
 さて、問題の核心が近い。今、大福餅を食べるべきか否かだ。冷蔵庫に蒲鉾の残りがあるが、それでは坂田の腹が満足しない。それよりも、大福餅を食べたいのだ。賞味期限の問題もあり、もう食べるのは時間の問題になっている。
 だが、これはトラップで、食べれば眠くなることは分かっている。もう少しでできあがる仕事を途中で眠くなって中断してしまう可能性が非常に大きい。
 坂田は過去を振り返る。全く眠くなかったことが何度かあるのだ。百パーセント眠くなるとは限らない。
 坂田はそれに賭けた。
 そして、一気に大福餅をほおばった。
 ふわっとしたものが、口の中で快く動く。舌が黒餡をとらえた。
 食べながらも坂田は仕事の手を休めない。
 しかし、この満足感が頭を鈍らせた。
「来た」
 と、大福餅に包まれ、眠りの帳口にさしかかる。ここは至福の時であり、他の何物をも寄せ付けない迷いのない世界があった。
 坂田は食べ終えた後、数分で沈没した。
 
   了
   


2010年4月19日

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