小説 川崎サイト

 

アウトサイダーアート

川崎ゆきお




「秋はもう終わりましたなあ」
「植村さん。もう春ですよ。これから暖かくなります」
「寒くなるんじゃないのかね」
「今日は寒いですが、もう冬じゃありませんから、大丈夫ですよ」
「冬は去ったか。なるほど」
「寒かったでしょ。年末年始の頃」
「忘れとった。寝ておったのかもしれん。冬眠のようなものじゃ」
「大丈夫ですか。そんな状態で」
「仕事はきっちりやらせてもらいますよ。こんな誰がやっても同じような作業なんだから、馬鹿でもエリートでも人選ばずじゃ」
 翌日植村は仕事場にやってこなかった。
「植村さん」
「はい」
 植村はテレビを見ながらご飯を食べていた。
「今日は仕事の日ですよ」
「あ、そうだったか。日が経つのは早いのう」
「今からでもいいので、仕事場に来てください」
「はいはい」
 仕事場には土の匂いが漂っている。
 マネージャーが植村が使う粘土をテーブルに積んだ。
「昨日と同じようなので、結構ですからね」
「昨日は何を作ったのかな」
 マネージャーが棚を指さす。
 そこには宇宙人のようなモンスターがいる。
 地球上にいる動物ではないため、宇宙モンスターとマネージャーが名付けた。どこか鬼瓦の鬼に似てはなくはない。
 これを植村は数時間で完成させる。その間時間が飛んでしまうのか、凄い集中力を発揮する。
 植村は粘土を千切り、骨組みの板の上に貼り付けていく。この骨組みはマネージャーが適当に作らせた案山子のようなもので、毎回型を変えている。
 あるサイズに治まるような骨組みとなっている。
 植村の作業は粘土を貼り付けていくだけで、焼くのは別の作業員がやる。
 植村の作品は国内ではゴミだが、海外ではサラリーマンの数ヶ月分の給料ほどの値で売れる。
 夕方前には作品はできていた。
 植村は出かけるときに見ていたテレビの話をする。
「友達が出てたんだ。あいつ、いつのまに美術評論家になったんだろうね。しかしまあ、あいつも年だ。いい晩年だね。成功したんだから。テレビに出てるんだから」
 マネージャーは、植村の独り言に適当に生返事する程度だ。
「まあ、私も、ここで働かせてもらって、何とか生きていけるから、それはそれでいいのかもしれんがね」
「植村さん、また明日がありますから、今日はゆっくり風呂にでも入って」
「あ、はい。ありがとうさんです」
「明日も仕事ですからね」
「はい、お疲れ様で」
 植村は、今はテレビに出ている友達よりも活躍していることを、本人は知らない。
 
   了
 
   


2010年5月1日

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